資生堂のメガブランド戦略:悪魔のスパイラルからの脱却
「新しい玉(商品)がないと売れない」
「新しいブランド(商品)が欲しい、早く作ってくれ!」
企業の商品開発担当者は、
いつもこんな販売の現場の突き上げをくらっています。
ライバル企業から、新商品が次々と登場してくるのを
目の当たりにしている販売の前線では、
自社でも、同じように新しいブランドを投入し続けないと
競争に負けてしまうという意識をもたざるを得ないのでしょう。
そして、数十年前から言われ続けてきて食傷気味ですが、
「消費の多様化への対応」という錦の御旗にも後押しされて、
多くの企業が多種多様なブランドを1社の中に抱えています。
「多ブランド化戦略」です。
資生堂もまた同様の状況に苦しんできました。
多ブランド化で、マーケットシェアが上がるならば結構なこと
でしたが、同社の場合、じりじりとシェアが下がり続けて
きていたんですよね。
結果から見れば、
「多ブランド化戦略」
は成功しなかったわけです。
なぜうまくいかなかったのでしょうか。
それは、ブランドを「生むこと」にばかり目がいき、
ちゃんと「育てること」ができない
「悪魔のサイクル」
に陥ったからです。
1 売れる商品がない。
2 現場の求めに応じて次々と新商品を開発、市場に投入する。
3 ところが、マーケティング予算の枠には制約がある。
このため、1ブランド当たりにかけられるマーケティング投資は
どうしても小粒なものになる。
実は販売の現場でも同様で、売るべきブランドがあまりに
多すぎてどれを売ったらいいか途方にくれる。
マーケティング投資も、そして販売パワーも多数のブランドに
分散し、希薄化した。
4 このため、基幹になるような「強いブランド」が喪失。
5 売れない商品はあまり置けないと小売店の店頭スペースが減少。
6 売上げ低迷
7 1に戻る
資生堂のようなリーダー企業は、ニッチ企業と違って、
出来るだけ大きな市場カバーしようとする「全方位戦略」を
取らざるをえません。
したがって、ある程度の「多ブランド化」は避けられないのですが、
一つ一つのブランドが発育不良のままで終わっていては意味が
ありませんよね。
そこで、資生堂は戦略の一大転換を図りました。
「メガブランド戦略」の採用です。
資生堂のメガブランドとしては、5本くらいあるようですが、
その中でも特に目立っているのは、
・マキアージュ(メーキャップ化粧品)
・ツバキ(ヘアケア)
・ウーノ(男性用化粧品)
の3ブランドでしょう。
どれも超有名なタレントを多数起用して世間を驚かせましたよね。
メガブランド戦略の基本方向は、
「太く強いブランド」を育成することを目指して、
様々な顧客接点でのブランド露出を高めることです。
これには巨額のマーケティング予算を集中的に投下することが
必要になります。ブランドを生むことではなく、手塩をかけて
ちゃんと育てることに力を入れるということを意味しますね。
結果は大成功でした。
昨年夏に投入された「マキアージュ」は、わずか半年で
認知率80%を達成。
この「80%」という数字は、
マキアージュに統合された旧ブランド「ピエヌ」「プラウディア」
の場合、5年かけてようやっとたどりついた水準だったそうです。
いかに、集中投資が高い効果を生むかわかりますよね。
販売量でも、マキアージュは既にカテゴリートップブランドに
なっています。
また、今年3月末に発売開始された
ヘアケアブランドの「ツバキ」は垂直立ち上げを果たし、
たちまち市場シェア12%を獲得。
ラックス、パンテーン、アジエンスといった強力他社ブランドを
追い抜いて、やはりシェアトップを獲得しています。
今回の内容は、資生堂の担当者の方のお話を元に書いていますが、
資生堂内部では、今回のメガブランド戦略が成功するかどうか、
あまり自信はなかったようです。
特にヘアケアカテゴリーでは、以前一世を風靡した
「スーパーマイルド」が低迷を続けており、
以降、新たに投入したブランドも失敗続きでした。
その失敗の原因は前述したとおり、
マーケティング予算の分散・希薄化にあったわけですが、
その真逆の戦略、すなわち「メガブランド戦略」の正しさが
今回、劇的な成果によって証明されたことになりますね。
ところで、多額な予算を特定ブランドに集中させることは、
「なるほどな」とうなずけるのですが、
なぜマキアージュも、ツバキもウーノも、
あんなにたくさんのタレントを一度に起用するんでしょうかね。
もちろん、「話題性」第一なんでしょうけど、
もっと深い意味がありそうです。
この点については明日書きます。
投稿者 松尾 順 : 2006年07月11日 13:55
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コメント
>「新しい玉(商品)がないと売れない」
>「新しいブランド(商品)が欲しい、早く作ってくれ!」
たいていの商品には、新発売効果とか、新規出店効果とかありますよね。あの賑わいや高揚感は、営業・販売担当者にとっては、麻薬みたいなものかもしれません。
かといって、新商品の開発には、営業・販売担当者の目にはあまり映らない、莫大な時間とコストがかかっているわけで、そんな現場のいうとおりにほいほい新しいものを作ってるわけにはいきませんものね。
続きが楽しみです。
個人的には、「機能性と使い勝手」のときにコメントしたものと似たようなことで、「機能」が「キャラクター」とか「イメージ」とか「セグメント」に置き換わったものなんじゃないかと思っています。
投稿者 菅原 : 2006年07月12日 12:33
菅原さん、ども。
小売店側としても、やはり
「新商品」を求めるみたいですよね。
ほいほい新しいものを作るわけにはいかないのに作らざるを
得ないという状況が生み出すものは、オリジナリティのない「物まね商品」ですよ。これは食品分野において特に顕著
ですよね。
投稿者 松尾 順 : 2006年07月12日 14:06
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