時代の風を読む
最近のベストセラー本のひとつ、劇団ひとりの
「陰日向に咲く」(幻冬舎)
を通勤中にサクッと読んでみました。
今何が大衆に受け入れられているのか、流行っているのか、
いわゆる「大衆文化」を知るのはマーケターとして
大切なことですよね。
ですから、本来は若年層がメインターゲットで
40歳過ぎのおじさんが読むのはちょっと恥ずかしい、
上記のような本をあえて読んでみるのも
立派なマーケティングリサーチだと思います。(笑)
さて、劇団ひとりさんは小説を書くのは初めてなのに、
筋書きが巧みですね。文体はさらっとしてます。
大笑いさせるようなオオゲサなオチはありませんが、
柔らかい笑いを呼び起こします。
じんわりとした余韻が残るいい小説でした。
まあ、確かにかなりの「文才」があることを感じさせますが、
ものすごい!というほどではありません。
ではなぜベストセラーになっているのか。
それは時代の風を見事に読んでいることにあると思いました。
登場人物たちは、ホームレス、フリーター、ギャンブル好きの
多重債務者などです。
昨今の拝金主義、成果主義が生み出した格差社会の
「オチこぼれ」をメインキャラクターとして設定しています。
彼らは、村上ファンドの村上氏のように、
資産家の生まれでもないし、ずる賢くもありません。
むしろ、不器用で衝動的な感情に流されてしまいがちな弱い人間。
でも、私も含め、いわゆる大多数の市井の人たちは、
多かれ少なかれ弱い存在ですよね。運命に翻弄され、
しばしば、自分自身の蒔いた種で苦労することも多い。
現代は、そうした弱さが、結果において大きな差として
現れてしまう厳しい社会です。だから「格差社会」と
呼ばれている。
そんな世の中で多くの人が共通して感じている
漠然とした不安や恐怖、あるいはあきらめ感といったものを
劇団ひとりさんはしっかり受け止め、
巧みな筋書きと心理描写で小説化した、
ここにベストセラーになった鍵があります。
ひとりさんは、小説の素人だからこそでしょう、
実にわかりやすい「時代の風の読み方」と言えます。
最近は、ワン・ツー・ワンマーケティングが主流で、
どうしても、ターゲット顧客一人ひとりの個別のニーズに
焦点を絞りがちですが、一方で、今の時代全体をおおう時代の
雰囲気、風を同時に感じようとすることが必要ですね。
なぜなら、個々人のニーズは、そうした時代の雰囲気、風
にも大きく影響されているからです。
現代のビジネスは、いくら市場を細分化したところで、
一定数以上の顧客を確保しなければ利益が出ない以上、
個々のニーズに加えて時代の風も的確に読み、それを
商品開発なりマーケティングコミュニケーションに反映
させることはいまだ重要なポイントだと思います。
投稿者 松尾 順 : 2006年06月07日 09:38
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コメント
ああ、なるほど・・・
この本、爆笑問題の太田氏がラジオで
「直木賞取ってもおかしくない!」「今年読んだ中で一番!」と
大絶賛してたんですよね・・・
おそらくその宣伝効果も大きかったハズ(笑)
ま、中身は現代風落語ですよねアレ。分かりやすい巧さ。
投稿者 nekomo : 2006年06月07日 12:47
nekomoさん、まいど!
版元は幻冬舎ですから、マーケティングもうまい。
ベストセラーのもうひとつの要因です。
ただ、さすがに「直木賞」はないでしょう・・・
最近の受賞作の「わかりやすさ」を見ると、
ありえない話ではないですけどね。
「現代風落語」とは言いえて妙です。ザブトン3枚!!
投稿者 松尾 順 : 2006年06月07日 13:03
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