シンプルマーケティング(20)U&E
シンプルマーケティングのレビュー最終回です。
私が敬愛してやまないマーケティング・コンサルタント、
森行生さんの著書を20回にわたってご紹介してきました。
ロングランではありましたが、
「レーダー理論」
「購入基準ヒエラルキー」
など、ご紹介していない面白い理論や視点がまだ
いろいろと残っています。
元本はとてもわかりやすく書かれていますので、
まだ読んだことのない方は、ぜひお読みください。
ところで、「シンプルマーケティング」と
他のマーケ本・教科書との違いがおわかりになりますか?
これまでの内容を振り返ればおわかりになると思いますが、
「シンプルマーケティング」には、
・4P(Product, Price, Promotion, Place)や、
・STP(Segmenting, Targeting, Positioning)
・SWOT(Strength, Weakness, Opportunity, Threat)分析
など、定番の話がまったくと言っていいほど出てきません。
つまり、オリジナリティにあふれているわけです。
私が、同書を高く評価している最大の理由はこの点ですし、
また、マインドリーディングのブログ&メルマガで念入りに
ご紹介してきた理由でもあります。
では、最後の話に入りましょう。
標準的なマーケティングの教科書には、
なぜだかあまり登場しない言葉(専門語)に、
「U&E」
というのがあります。
実務(特に外資系企業)ではよく使われるんですけどね。
「U&E」は、
‘Usage & Establishment’
の略称、日本語に訳せば「使用実態」となります。
「U&E」はさまざまな指標によって構成されていますが、
森さんによれば、次の3つが最も重要だそうです。
・知名度
・トライアル
・レギュラー
「知名度」は、特定商品(ブランド)を知っているユーザー
の割合、「トライアル」は、一定期間に1回でも当該商品を
購入したユーザー(いわゆる「初回購入客」)の割合、
「レギュラー」は、2回以上当該商品を購入したユーザー
(いわゆる「固定客」)の割合です。
本ではグラフが示されているのですが、
広告・販売促進などマーケティング投資を増やしていくと、
言うまでもなく、「知名度」「トライアル」「レギュラー」の
割合は増加していきます。
消費者の購買行動としては、
「知名度」→「トライアル」→「レギュラー」
とハードルが高くなっていきますから、
ユーザーの割合も、知名度が最も高く、
トライアル、レギュラーと低下していきますよね。
ここで注意すべきなのは、
知名度はある一定の割合で、
ほぼ横ばい(高原状態)になってしまうことです。
そして、これ以上はいくらマーケティング投資をしても、
知名度の上昇率は極めて小さいため、投資効率が悪化します。
したがって、知名度が高原状態になる地点まできたら、
知名度を高めることを目的とするマーケティングはセーブして、
トライアルやレギュラーの割合を上昇させることに注力すべき
であるわけです。
森さんは、単に「知名度」が上がった、下がったと
一喜一憂するだけでなく、
マーケティング投資の重要な目安として「知名度」を
活用すべきだと指摘しています。
ちなみに、一般的な傾向としては、
知名度が40%を超えると、上昇カーブがいきなり急勾配となり、
60%を超えるとカーブが緩やかになって停滞し始めるため、
このあたりでムダな投資はセーブする必要があります。
なお、業種によるバラツキはあるものの、
低価格の商品なら、平均的には、知名度が60%になると、
トライアルは17%程度になるそうです。
さて、上記3つの指標から、
さらに次の2つの指標を導くことができます。
・コンバージョンレート
・リテンションレート
「コンバージョンレート」は、
「商品の名前は知っていて、購入したことがある人たち」
の割合ですね。
また、「リテンションレート」は、
「商品を一回は買って、レギュラーユーザーになった人たち」
の割合です。
これらの指標は、問題点や課題の抽出や改善策の立案・評価に
役立てることができます。
例えば、「コンバージョンレート」が業界平均よりも
低かったとします。商品名は知られているのに、トライアルする人が
少ないという状況です。
この場合、問題点としては次のようなことが
挙げられますね。
・店に商品が置いていない(流通に問題あり)
・購買意欲を刺激しないメッセージ(広告に問題あり)
こうした仮説に基づいてマネジメントサイクル(Plan-Do-Check)
を回すことで、コンバージョンレートを向上させるというわけです。
では、「リテンションレート」が低い場合の問題としては、
どんな仮説が立てられるでしょうか?
1回は買ったことはあるけど、2回以上買っている人、
つまり、固定客になる人が少ないという状況です。
食品であれば、「味がよくない」という可能性がありますね。
広告ではおいしそうに思えたので買っては見たものの、
実のところまずくて、「二度と食べたくない」と思う人が
多かったのかも知れません・・・
森さんは、
“「U&E」は、いわば戦略の羅針盤であり、
マーケティングの中枢をなす要素のひとつだ”
と述べています。
「U&E」のさまざまな指標を算出するのは、
とても地道な作業です。
しかし、こうした過程を飛ばして、
最初から商品のコンセプトをいじろうとするのは間違いです。
本当の問題は、別のところにあるかも知れないからです。
「大局から見て綿密な調査を重ね、少しずつ核心を絞り込む」
この方法論が、マーケティングの基本中の基本である。
森さんのこの主張に全面的に賛成します。
◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)
投稿者 松尾 順 : 11:18 | コメント (0) | トラックバック
シンプルマーケティング(19)DCCM理論
シンプルマーケティングでは、
「プロダクトコーン理論」
と並ぶ、重要なオリジナルの理論として、
「DCCM理論」
があります。
DCCMとは、コミュニケーションを効率的、効果的に
行うために必要な要素の総称です。
具体的には次のとおり。
D:Differenciating =差別性
C:Competitive =優位性
C:Convincing =説得性
M:Marketability =市場性
DCCM理論は、
商品コンセプト開発や広告メッセージ
を開発するにあたって考慮しなければならない
「基本価値基準」
だと、森さんは述べています。
では、上記で示したDCCMのそれぞれの要素について
簡単にご説明しましょう。
●D:Differenciating =差別性
生活者が自社商品に注目してくれるためには、
まず、他製品との「違い」、すなわち「差別性」が重要。
「差別性」がなければ、膨大な商品に埋没してしまい、
そもそも注意さえ引くことができないのが現状ですよね。
なぜなら、社会心理学者のミルグラムが言うように、
商品や広告がはんらんする現代消費社会において、
生活者は固有の情報(特定ブランドの情報)を収集する時間を
できる限り短縮しようとし、そのため重要でないと思われる
情報は、極力無視する傾向があるからです。
なお、「差別性」とは、他製品との純粋な違いであって、
良し悪しや、好き嫌いといった判断は含まれていない点
ご注意ください。
良し悪し、好き嫌いに関係するのは、
次に紹介する「優位性」です。
●C:Competitive =優位性
生活者をまず振り向かせるには、「差別性」がまず必要とは
言え、それだけで終わる商品は「キワモノ」です。
息の長い、売れ続ける商品を生み出すためには、
優れた機能、性能、品質、あるいは利便性、手に入れやすさ、
ステータスシンボル性など、「優位性」を備えていなければ
なりません。
●C:Convincing =説得性
生活者を購買行動に向かわせるためには、
「説得力」
を高める必要があるということです。
私なりに解釈すれば
「買うべき理由」
を適切に示すということでしょうか。
説得力は、まず、商品の素材や製法高めることができます。
たとえば、「カシミヤ100%」と言われれば、
それが真実であると信頼できる限りは、説得力ありますよね。
デザインも、説得性を高める要素になりえます。
優れたデザインは、それだけで高い価格設定が可能に
なったりしますよね。
また、すでに確立されたブランドは、
そのブランドが冠されているだけで「買うべき理由が明確」です。
すなわち「説得性」が高い。
だからこそ、「ブランド」には高い価値があるわけです。
さらに、「説得性」を別の視点で高める例として、
シンプルマーケティングでは、
「片面提示」「両面提示」
が紹介されています。
「片面提示」とは、商品のプラス面だけを伝えること。
「両面提示」は、商品のプラス面と同時に、マイナス面も
伝えることです。
「片面提示」は、比較的低学歴で他人に判断を依存する傾向が
ある人に効果的だと言われています。
一方、「両面提示」は、高学歴で自立心の高いタイプに効果が
あります。
ただ、現代の生活者の大半は、ネットの普及もあって
情報をしっかり集め、じっくり検討する購買行動を取るように
なってきてますから、自社の都合のいいことだけしか言わない
「片面提示」は、説得力が低く、また信頼を損ないかねない
やり方だと言えます。
基本は、良いことも悪いことも正直にありのままに伝えることで
かえって「説得性」が高まると考えるべきでしょうね。
●M:Marketability =市場性
「差別性」「優位性」「説得性」は、
商品や広告のメッセージが個人に効率的に到達するように
編み出された手法です。
しかし、商品も広告も同一のメッセージで大量の生活者に
訴求しなければならない以上、ターゲットとなる生活者が
十分な数存在しているかをチェックする必要があります。
すなわち「市場性」を見極めるということです。
どんなに「差別性」「優位性」「説得性」を兼ね備えた
すばらしい商品であっても、ユーザーがごく一握りに限定されて
しまうようなものなら、継続的な売り上げ確保ができない
ですからね。
このDCCM理論は、
企業や商品のチェック(評価)に応用できますし、
プロダクトコーン理論やプロダクトライフサイクルと
組み合わせながら、効果的なマーケティング戦略の立案に
活用できるツールです。
詳細はぜひ、シンプルマーケティングで!(^_^)
◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)
投稿者 松尾 順 : 11:32 | コメント (0) | トラックバック
シンプルマーケティング(18)始めちょろちょろ、なかぱっぱ
シンプルマーケティングのレビューは、
今回も含めてあと3回で終了の予定です。
当初全10回の予定でしたが、思わずはまってしまいました。
結局倍の全20回シリーズとなりました。長引かせてすいません!
ひょっとして、本は買わなくてもいいんじゃないかと
感じてらっしゃるかもしれませんが、そんなことありませんよ。
肝心なことはあえて、隠してあります。(^^ゞ
ぜひ、元本「シンプルマーケティング」を読みましょう。
では本論。
まずは、前回ご紹介した2つの「売り方」の戦略、
・スキミング戦略
・ペネトレーション戦略
の簡単な復習です。
スキミング戦略は上澄みのイノベータに訴え、
次にアーリアダプタへ浸透させ、最後にターゲットにシフトする
アプローチ。
一方、ペネトレーション戦略は、
最初から、多数派のフォロワーを狙っていく売り方でした。
ペネトレーション戦略は莫大な資金力を必要とするため、
限られたごく一部の企業にしか採用できないアプローチです。
実質的には、各カテゴリーのトップ企業だけに許された戦略と
言えます。
しかし、森さんによれば、
日本の上場企業の大半はペネトレーション戦略を行っています。
トップ企業に太刀打ちできる流通力、資金がないのに
無理な物量戦略を推し進め、結果として低迷している企業が
実に多くなっています。
森さんはこうした企業を「ミニ大企業」と呼んでいます。
「ミニ大企業」の問題は、長期的な戦略にのっとって
ペネトレーション戦略を実施しているわけではない点です。
ただ単に「他社がやっているから遅れてはまずい」と
いたちごっこを繰り返した結果、
たまたま擬似ペネトレーション戦略になっている企業が大半。
では、トップ企業以外の下位企業は何をするべきなのか。
森さんの処方箋は次の3つです。
・商品開発力を高めて付加価値の高い商品を出すべきである。
・商品の数とターゲットを絞り込むべきである。
・流通の効率を上げるべきである。
*「商品開発力」は、技術力だけでなく、
ブランドマネジメント力を含みます。
したがって、基本的には大半の企業では、
イノベーターからフォロワーへと落とし込むスキミング戦略を
取るしかないということになります。
さて、森さんは、スキミング戦略の適切な方法を
日本伝統のごはん炊きにたとえています。
●始めちょろちょろ ・・・深く静かに
イノベータに対しては、テレビ広告などの派手な活動はせずに、
クチコミ誘発などの仕掛けを着々と進めておく。
この段階で派手にしかけると、イノベータがひそかに楽しむ
期間が短くなり、短命商品になる可能性あり
●中ぱっぱ じゅうじゅうふいたら ・・・派手に
商品がアーリアダプタに到達する直前直後から派手に
販売やマーケティング活動を実施します。
イノベータに受けた商品を「内輪受け」で失速させないために、
半ば強引にアーリアダプタにつなげていく時期です。
●火を引いて 赤子が泣いてもふたとるな ・・・おとなしく
この段階では、当該商品をキャッシュカウ(利潤を収穫する商品)
として扱います。
商品がすでにプロダクト・ライフサイクルの成熟期に入ったと
考えて、ここで得た利益を新製品の開発や他商品の
成長期マーケティング投資の原資にあてます。
したがって、広告投資の目的は、「知名度を上げる」
のではなく、「知名度が下がらないように維持する」
に変化します。
戦略も、「競合に勝つ」のではなく、
「競合に負けない」ようにし、この延長として、
ブランド拡張、既存ラインナップの統廃合を進めます。
投稿者 松尾 順 : 03:42 | コメント (2) | トラックバック
主要情報源
マインドリーディングのブログ&メルマガの記事執筆に当たってヒントをもらったり、ネタ元とさせていただくことの多い主要情報源をご紹介します。
これらのメディアには大変お世話になっております。ここで感謝の意を表させていただきます。
必要に応じて視聴・聴取・閲覧するテレビ・ラジオ番組やブログ、気まぐれで見る雑誌類、ちょっと恥ずかしくて紹介できない雑誌(笑)、紹介しきれない一般書籍は除外し、定点観測しているものが中心です。
なお、下記以外に、「これもチェックしといた方がいいよ」と思う情報源がありましたら、ぜひとも教えてください!とってもありがたいです。m(_ _)m
●新聞
・日経新聞
・日経産業新聞
・日経MJ
●雑誌・専門誌
・日経ビジネス
・日経情報ストラテジー
・日経デザイン
・日経ビジネスアソシエ
・プレジデント
・宣伝会議
・販促会議
・広報会議
・I.M.プレス
・ダイヤモンド・ハーバードビジネスレビュー
・一ツ橋ビジネスレビュー
・Think!(シンク)
・Works(ワークス)
・Web Strategy
・Web Site Expert
・ナショナルジオグラフィック
・R25
●メールマガジン
・Japan Business News
・ビジネス知識源(プレミアム)
・Japan Mail Media
・スーパー広報術
・プレジデントビジョン
・社長のビタミン・一日一語
・がんばれ!社長 今日のポイント
・『社長、「小さい会社」のままじゃだめなんです!』
・平成・進化論。
・ビジネス発想源
・百 式
・売れたマーケティング、バカ売れトレーニング:売れたま
・日経MJに見るマーケティングの戦略・戦術
・メルマガ成功法
・売れるためのマーケティング心得 オカザキマガジン
・企画“生”ノート
・経営戦略考
・ビジネス・ブック・マラソン
・ビジネス選書&サマリー
・ハイパーコム
・あなたは一国一城の主
・ランチェスター戦略『弱者逆転の法則』
・週刊まちおこし
●Webサイト
・日経ビジネスオンライン
・ダイヤモンド・オンライン
・アイ・ティ・メディア(ITmedia)
・マーケジン
・Wisdom(NEC)
・J-marketing.net(JMR生活総合研究所)
・松岡正剛の千夜千冊
・知恵市場
・Kanamori Marketing Office
・マーケティングキャンパス
・田坂広志公式サイト
●メーリングリスト
シンプルマーケティング(17)スキミング&ペネトレーション戦略
シンプルマーケティングでは、
生活者を次の3タイプに分けています。
・イノベーター(革新人間)
・アーリーアダプタ(先端人間)
・フォロワー(保守的な人々)
人口に占める割合としては、ざっくり言えば、
イノベーターが最も少なく、フォロワーが最も多い。
アーリアダプタはその中間です。
したがって、ピラミッドの三角形を横に3つ切りにしたイメージ
では、突端にイノベーター、真ん中にアーリアダプタ、
底辺にフォロワーが位置します。
さて、この生活者の3タイプのどこから攻めるか、すなわち
売り方には、2つのアプローチがあります。
・スキミング戦略
・ペネトレーション戦略
スキミング戦略は、「上澄み戦略」とも一般には言われますね。
三角形の突端から、底辺へと上から下へ落としていく売り方です。
つまり、上澄みのイノベータに訴え、次にアーリアダプタへ
浸透させ、最後にターゲットにシフトさせます。
このやり方で成功したのが「スウオッチ」でした。
日本市場に進出した85年当時は、
「安物の派手なプラスチック時計」
というネガティブなイメージを持たれていました。
主にフォロワーにしかリーチ(到達)しない一般紙に、
通常のブランド広告を出稿していたことがその理由です。
しかし、90年にヨーロッパで登場して爆発的に売れた
「スキューバ」「クロノ」といったモデルを『モノ・マガジン』
のようなマニア系(=イノベータ)雑誌が取り上げたことを
きっかけに、マーケティング戦略のターゲットを
イノベータに絞込みました。
その結果、ブランドイメージが改善し、
イノベータによるコレクションアイテム的な購入が増えました。
さらに、「実際に使って楽しむ時計」へとイメージの転換を
図ることでアーリアタダプターにターゲットをシフトし、
売上を伸ばしていったわけです。
一方、ペネトレーション戦略は、
最初から、多数派のフォロワーを狙っていく売り方です。
フォロワーの支持を得られれば、膨大な売上・利益が見込めます。
ですから、できれば、はじめからフォロワーを相手にしたいと
考えるのは道理でしょう。
ペネトレーション戦略では、
しばしば極端な低価格をつけ、大量の広告を露出します。
モノであれば、流通力を強化し、店に商品を大量に陳列して、
「売れている」イメージ(幻想といってもいいかな)を
生み出すことで、保守的なフォロワーの付和雷同的な性質を
うまく利用するわけです。
この戦略は、いわば「力のゴリ押し」であり、
莫大な資金力を必要とするため、限られたごく一部の企業に
しか採用できないアプローチです。
ちなみに、ペネトレーション戦略が伝統的にうまい企業は、
松下電器、コカコーラなど。
松下電器では、発売日前後にマーケティング活動を集中し、
発売直後に最大のシェアを獲得する「垂直立ち上げ」という手法を
このところ盛んに駆使してますよね。
では、この戦略が得意な新興企業はどこでしょうか?
答えは簡単ですよね。
「ソフトバンク」です。
同社は、ADSL市場(Yahoo BB!)では見事成功しましたが、
携帯市場では、出だしで大きくつまずいてしまいました・・・
まあ、Yahoo BB!も当初はいろいろとトラブルが起こりましたし、
それを克服してきたソフトバンクのことですから、
携帯市場でもしぶとく二の手、三の手を出してくると思いますが。
投稿者 松尾 順 : 10:29 | コメント (0) | トラックバック
シンプルマーケティング(16)意味性の純化と広告戦略
シンプルマーケティングで言う「意味性の純化」とは、
「記号」と「意味」の双方向一致を強化することでした。
これ、まだわかりにくい人もいらっしゃると思うので、
再度、具体的に説明します。
「吉野家」という店舗名(記号)を聞けば、
うまい、早い、安いの「牛丼」(意味)をイメージしますよね。
現在、吉野家には「豚丼」なども置いてありますが、
それらは連想されるイメージに上ってきません。
つまり、記号→意味の連想が強い。
一方、「牛丼」という商品カテゴリーやそのイメージ(意味)
を見たり聞いたりしたら、吉野家を連想する方が多いと思います。
つまり、意味→記号の連想も強い。
この双方向が強い、つまり「意味性の純化」に成功している
ブランドは、ほとんどの場合、その商品カテゴリーにおける
ナンバーワンブランドです。
吉野家が「牛丼」カテゴリーにおけるナンバーワンブランド
であることは異論はないですよね。(復活途上ですが)
さて、「意味性の純化」にいったん成功したとしても、
競合製品の登場や、節操のないブランド拡張、多角化などに
よって、記号と意味の双方向一致度合いが弱くなっていくと、
ナンバーワンブランドの座から落ちてしまう可能性が
出てきます。
前回(15)でご紹介したセイコーやカゴメの事例は、
ブランド拡張や多角化の失敗例でした。
ですから、企業としては「意味性の純化」を
弱体化させないようにしなければなりません。
ただ、現実はそうではないですね。
とりわけ、広告戦略において顕著です。
広告のキャラクターやメッセージが頻繁に変わる
一貫性のない広告が目に付きます。
その最大の失敗例として挙げられるのが、
90年代のキリンビールの「キリンラガー」でしょう。
キリンラガーの場合、熱処理された苦味のあるビールという
従来のイメージを「生ビール」化して、薄めてしまっただけでなく、
キャラクターを頻繁に変える広告を続けました。
こうした一貫性を欠くコミュニケーションが客離れを招き、
97年に、ついにアサヒの「スーパードライ」に首位の座を
奪われてしまうわけです。
私も以前、キリンラガーの過去の一連のTVコマーシャルを
見る機会がありましたが、「キリンラガー」の意味がぶれ続けて
いたため、
「これじゃあ、明確なブランドイメージが形成できないな・・・」
と感じたことを覚えています。
シンプルマーケティングの著者、森さんは
“ブランディングに成功するためにはブランドの意味性を明確にし、
それを極力反映させる広告をつくって「いける」と確信したら、
むやみにいじくりまわさないことが肝要なのである。”
と述べています。
なお、森さんによれば、広告戦略については
・記号性連続性
・意味性連続性
の2つの方向性があるそうです。
「記号性連続性」とは、
タバコの「マールボロ」の代名詞となっている「カウボーイ」
のように、時代を超えて「男っぽさ」という意味を保持できる
ビジュアル(キャラクター)を使用しつづけること。
一方、「意味性連続性」は、
コカコーラが、「若者の象徴」という意味を伝えるために、
その時代時代で異なるビジュアル(キャラクター)を採用する
ことです。
1940年代のコカコーラは、当時人気の若大将、加山雄三が
登場してたそうですが、今は、倖田來未ですよね。
そして、記号性連続性の場合、
いつの時代にも通用する不滅のビジュアルを
表現するのが難しいこと。
また、意味性連続性の場合は、
そのつど、時代にふさわしい素材を探すのが難しいことです。
どちらにせよ、広告戦略も一筋縄ではいかない。
口で言うよりもはるかに難しいことではあります。
投稿者 松尾 順 : 11:18 | コメント (0) | トラックバック
10円まんじゅうのマーケティング戦略
これから全国にお店が増えそうなのが
「10円まんじゅう」
かもしれません・・・
日本人なら、ドーナツもいいけど、やはり「まんじゅう」。
さて、千葉・市川に本社を構える「ジャパンフードシステム」が
運営する
‘蒸したてまんじゅう 「和ふ庵」’
は、現在、東京・千葉に16店舗ほど展開しています。
1個10円で買える1口サイズのまんじゅう、実にお手軽ですね。
私は、松戸店で10個セット(110円)を試してみましたが、
一瞬で食べてしまいました。(笑)
たかが1個10円じゃ、とても儲かりそうにないように思えます。
しかし、実は大違い。
「和ふ庵」では、20個、30個セットを主体に販売しています。
(10個セットは、小さく目立たないように表示してあって、
注文するのに気が引けます。いちおう、1個からも買える
らしいのですが)
その結果、客単価は600円程度、一人当たり60個も買っていく。
おみやげや、子供のおやつなどにちょうどいいからでしょうか。
(安いわりにボリューム感ありますし・・・)
1店舗の1日当たりの来店客数は400人以上。
つまり、まんじゅうは1日2万個以上売れるんですね。
売り上げベースでは、日商20-30万円、月商700万円くらい。
一方、店舗の平均面積は15坪、一般的なコンビニの半分くらい
の大きさです。
コンビニの日商はおおむね40-60万円ですから、
10円まんじゅう店は、コンビニ並みの販売効率を持っています。
このあたりの「売れる仕組み」は、
100円ショップのダイソーと同じですね。
単価を安く見せることで、実質的な客単価を引き上げる。
全体としては、しっかり売り上げ・利益を確保する。
10円まんじゅう恐るべし。
味も結構うまいが、マーケティング戦略はもっとうまい。
投稿者 松尾 順 : 11:40 | コメント (3) | トラックバック
「へぇ!」体験が生み出すシータ波
以前、このメルマガ&ブログで、
という話を書きました。
英国の寝台列車「ロイヤルスコッツマン」は、エディンバラ13時発。
19時ごろにスピーン橋駅に停車すると、翌朝8時まで動きません。
夕食から就寝時間帯に動かないのは、‘サービス’なんですね。
単にA点からB点に移動するだけじゃなくて、列車の旅を楽しむ
からこそのサービスでしょうけど、「へぇ」ですよね。
このネタは「世界途中下車」(日経新聞夕刊)というコラム
から拾ったものですが、昨日の同コラムでも新たな「へぇ」が!
やはり欧州の鉄道の話。
レールが1本は単線、2本なら複線。
複線なら、一方が上りで、一方は下り。
そういうもんですよね。
これが私たち(日本人)の常識、というか固定観念です。
ところが、欧州では、2本のレールを上りにも下りにも使う。
列車が上手と下手からすれ違うんじゃなくて、
2本のレール上を一方向に並走するようなこともある。
これは「単線並列」と呼び、欧州ではポピュラーな方法。
日本では、複々線化(レール4本とか)して、
鈍行(各駅停車)と快速用とレールを分けるのが一般的です。
でも、欧州では、混雑する方向に合わせ、
2本のレールを上り、下りに柔軟に使い分けています。
これだと複々線化するコストが削減でき、効率がいいですよね。
「単線並列」は、鉄道に詳しい方はご存知だったかも
知れませんが、普通の人にとっては「へぇ!」ですよね。
こんな「へぇ!」体験、それだけで楽しいことですけど、
別のいいことがあります。
それは、「シータ波」という脳波を発生させること。
「シータ波」は、脳を活性化させ記憶力を高めます。
また、新たな発想が生まれ、偉大な発明・発見につながるかも!
海馬の研究で有名な池谷裕二氏によれば、
シータ波を発生させることができれば、高齢者でも若い人並みの
記憶力を維持することができるらしいです。
「シータ波」を発生させるには、知らない土地に行ったり、
知らなかった世界の情報に触れて、外界・ものごとに
新鮮な興味・関心を持つことが有効です。
逆に言えば、脳を「マンネリ化」させないことです。
ですから、私たちの常識、固定観念、先入観を壊してくれる
「へぇ!」体験もまた、シータ波発生に効果的というわけです。
なお、わざわざ知らない土地にいかなくても、
普段の生活でもシータ波を発生させることは可能です。
見慣れた風景、聞きなれたコトを改めてじっくり観察して、
「なぜこうなんだろう?」
と素朴な疑問を持ってみる。
さらに、「自分だったらこうするな・・・」
とアイディア出しまで発展させる。
実際、
小山薫堂氏は、「勝手にテコ入れ」をやり、
折口雅弘氏は、「当事者意識を持つ」ことをやり、
高城剛氏は、「歩きながら‘なぜこうなってる?’」と考える
とアイディアマンとして知られる人たちは
経験的にシータ波を発生させるコツを体得されてるようです。
投稿者 松尾 順 : 09:07 | コメント (0) | トラックバック
シンプルマーケティング(15)意味性純化の失敗例
昨日のメルマガ&ブログで、シンプルマーケティングでは、
「記号性」と「意味性」の双方向一致
を強化することを「意味性の純化」
と呼ぶことをご紹介しました。
そして、
「意味性の純化」が高ければ高いほど、
ブランド力が強く、生活者から最も選好される確率の高い、
成功しているブランドであること
したがって、ブランド戦略の究極の目的は、
「意味性の純化」を目指すことにあると言えると書きました。
「意味性の純化」の別の具体例を示すなら、
「マクドナルド」がわかりやすいでしょう。
「マクドナルド」(記号)といえば、「ハンバーガー」(意味)
「ハンバーガー」(意味)なら、「マクドナルド」(記号)
と[記号→意味]、[意味→記号]の双方向から強いリンクが
成立しています。
つまり、マクドナルドでは、「意味性の純化」に成功している。
トップブランドであることの要因であり、証明でもあります。
*ただし、ここでのハンバーガーの意味(ベネフィット)は、
「早くて、安くて、おなかいっぱいになる」
であって、これをポジティブに受け止める人でないと
ユーザーになってくれませんが・・・
ついでながら、マクドナルドを書いて思い出したのは「吉野家」。
「吉野家」といえば「牛丼」
「牛丼」なら「吉野家」
ですよねぇ・・・
不思議なのは、
狂牛病のために米国産牛肉が輸入できなくなり、
長いこと「牛丼」の提供を中止していたにもかかわらず、
ほとんど、「意味性の純化」が弱くなっていないことです。
これについて、私は次の2つの仮説を持っています。
1.つなぎとして投入された新メニューはどれも、
ぱっとしなかったこと(要するにおいしくなかった)
2.あえて牛丼を提供しなかったことで逆に、
ユーザーの頭の中での「吉野家」と「牛丼」のリンクが
固定化されたこと
あなたはどう思いますか?
さて、意味性の純化に失敗した例がシンプルマーケティング
では2つ紹介されています。
まず、「セイコー」です。
昔は、セイコー=高級な時計
というイメージが浸透していました。
値段は高めだが、品質は良いという評価を受けていたのです。
しかし、低価格ブランドの「アルバ」を始めとして、
気軽なファッション時計市場、低価格時計市場に進出。
一方で、「ドルチェ&エクセリーヌ」といった高級ブランドは
知名度を上げることができませんでしたし、
その意味(ベネフィット)を伝えることもできないまま放置。
このため、
「セイコー」=「高級でクオリティの高いブランド」
という図式が崩れ始めたわけです。
次に「カゴメ」の例です。
カゴメのブランド資産は、トマトジュース、野菜ジュース
などから連想される「健康感」ですよね。
しかし、同社はバブル時代、新規事業分野として缶コーヒーや
サイダーなどの炭酸飲料に手を出します。
この結果、カゴメ=健康感というリンクを弱くしてしまった。
ただ、幸いにも、新規事業はことごとく失敗。
カゴメは、原点に戻って、
「キャロット100」「野菜生活」シリーズなどを発売。
これらがヒットして、再び、
「意味性の純化」を取り戻すことに成功しました。
シンプルマーケティングの著者、森さんは、
セイコーの例を「乱発&ぼけ病」
カゴメの例を「形だけのお付き合い病」
と呼んでいます。
安易なブランド拡張や多角化は、
ブランド価値を低下させてしまうことがよくわかりますね。
◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)
投稿者 松尾 順 : 10:34 | コメント (0) | トラックバック
シンプルマーケティング(14)記号と意味
今回は、ブランド戦略成功の鍵を握る
「記号」と「意味」
を取り上げます。
学術的な定義は避け、
「記号」と「意味」を具体的に説明すると、
商品における「記号」とは、
名称(ネーミング)、ロゴマーク、パッケージデザイン
など、他の製品と区別するてがかりとなるものです。
一方、商品における「意味」とは、
生活者のベネフィット(その商品を購入して得するコト、モノ)
になります。
そして、ブランド戦略の成功度合いは、
この「記号」と「意味」の双方向のリンク
の度合いで判断することができます。
シンプルマーケティングで例示されているのは
「スニッカーズ」です。
「おなかがすいたらスニッカーズ」
「ピーナッツぎっしり、確かな満足」
といったコピーが印象に強く残ってますよね。
スニッカーズは、圧倒的な広告量と配荷量で、
「スニッカーズ」(記号)といえば
「空腹を解消してくれる」(意味)
という[記号→意味]のリンクと
「空腹感を解消したい」(意味)と思ったら
「スニッッカーズ」(記号)
という[意味→記号]のリンク
の「双方向リンク」を確立することに成功しています。
こうした状態を
「記号性と意味性の双方向一致」
と言います。
一方、リンクが弱いブランドの例としては、
「ボルボ」が挙げられています。
「ボルボ」(記号)といえば、「安全なクルマ」(意味)
という[記号→意味]リンクは強いのですが、
「安全」(意味)にリンクする「車種ブランド」(記号)
としては、ボルボだけでなく、ベンツやクラウンと
考えている生活者も多いため、[意味→記号]リンクは弱い。
すなわち、「意味性から記号性への一致」
が成立していません。
この状態を
「記号性からの一方向一致」
と言い、ブランドどしてはまだ未熟であることを
示しています。
なお、「記号性」と「意味性」の双方向一致を強化することを
「意味性の純化」
と言います。
「意味性の純化」が高ければ高いほど、
ブランド力が強く、生活者から最も選好される確率の高い、
成功しているブランドです。
したがって、ブランド戦略の究極の目的は、
「意味性の純化」を目指すことにあると言えるでしょうね。
◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)
投稿者 松尾 順 : 11:58 | コメント (1) | トラックバック
口コミマーケティングの倫理学
今年5月18日のマインドリーディング・メルマガ&ブログで、
口コミ・マーケティングの新手法を取り上げました。
新手法というのは、個人のブログで特定商品・サービスの
紹介記事を書いてくれたら「謝礼」を払う仕組みのことです。
しかし、お金をもらって書く記事は、実質的には
「記事風広告」(ペイドパブ)
であって、広告と明示しない限り、「ちょうちん記事」と
みなされてしまうのでメディア倫理上まずいんじゃいないで
しょうかという趣旨の内容を書いたんですが・・・
案の定、NHKテレビの番組(11/3放送のニュースウォッチ9)で、
女子大生ブロガーが映画の試写会やレストランなどに招待され、
後日、ブログにそのことを取り上げると「謝礼」が支払われると
いう裏の仕組みが報道されたことをきっかけに、
当女子大生ブログに非難が殺到し、炎上。
当ブログは、実質閉鎖に追い込まれるという結果を招いています。
(今は別のところで再開してますね)
また、この仕組みを運営していた企業は解散を決めています。
大手企業の子会社でした。
解散の理由は明らかにされていませんが、
女子大生ブログ炎上が最大の理由でしょう。
こうした事件が起こるたびに思うのは、
企業側の論理ばかりが立ち、
消費者の気持ちをまるで理解できてない点です。
消費者をバカにするようなアプローチは、
必ずしっぺ返しがあると考えるべきじゃないでしょうか。
ともあれ、お金を払ってブログに書いてもらう
口コミマーケティング手法は、もはや
大手企業には手の出せない禁じ手になってしまったと
言えますね。
この仕組みを通じて得られるポジティブな効果よりも、
ネガティブな効果の方が大きくなってしまったからです。
さて、女子大生ブログ炎上について、ふじしろ・ひろゆき氏は、
アメリカの口コミ業界団体「WOMMA」
(Word of Mouth Marketing Association)が定めた倫理コード、
R:Honesty of Relationship
(関係。誰を代弁しているのかを説明する)
O:Honesty of Opinion
(意見。自分の信じていることを言う)
I:Honesty of Identity
(アイデンティティ。自分の正体を偽らない)
に照らして、次のような指摘をしています。
(PRIR、2007 January)
・サービスを提供されたことを明示していない →R
・女子大生が会社に所属してプロモーションを
行うセミプロ的立場であることを明示していない →I
・会社が上手なブログの書き方を指導していたこと
から、「無理やり書かせているのではないか」
という疑惑が生まれた →O
そして、一言で言えば「正直でなかった」と結論づけています。
商品・サービスの人気に火をつけるための着火剤として、
適度な「やらせ」「さくら」は必要(悪)です。
したがって、マーケターとしては、上記のようなアプローチを
完全に否定するのは自分の首を絞めるようなものです。
しかし、「一線」は超えてはいけないということなんですよね。
ちなみに、口コミの定義は、
慶應義塾大学、濱岡教授によれば次のとおりです。
(1)話し手と受け手との対人コミュニケーション
(2)ブランド・商品・サービス・店に関する話題
(3)受け手が非商業的な目的であると知覚している
(4)話し手と受け手が社会的な関係に規定されている
この定義に照らしても、金銭の交換が発生する
口コミマーケティングは、そもそも「口コミ」ではないと
言えます。
投稿者 松尾 順 : 10:53 | コメント (2) | トラックバック
「愛すべきなまけものたちへ」・・・ ワコール・スタイルサイエンスのWeb-CRM
今日は、ワコールのWebサイトを活用したCRM施策事例を
ご紹介します。
(IMプレスセミナーにおけるワコールご担当者の講演より)
は、ブランド横断型のサイトです。
共通しているのは、
「トレーニングボトム」
と呼ばれる補正下着を対象としたサイトであること。
「トレーニングボトム」の最も代表的なブランドは、
「おなかウォーカー」
「ヒップウォーカー」
など。
これらの広告は地下鉄などでもよくみかけますので、
男性の方も記憶に残っているかもしれませんね・・・
さて、いわゆる「補正下着」は、
着用している間はおなかやおしりが引き締まって見えるけれど、
ワコール担当者曰く、
脱ぐと「ぼよよん」と元に戻ります。(笑)
一方、ワコールのトレーニングボトムは、
着用したからといって「ぼよよん」状態が引き締まるわけでは
ありません。
しかし、特殊な織りが採用されており、
着用して一定量以上の運動をすると、徐々におなかやおしりが
引き締まっていき、脱いでも「ぼよよん」に戻らなくなる機能
を持っています。
つまり、トレーニングボトムは、
正確には体型を「補正する」のではなく、「変化させる」こと
のできる画期的な下着です。
ただし、引き締め効果を実感するためには、
最低でも週5日着用して、1日6千歩以上歩かないといけません。
すると、着用開始1ヶ月後くらいには、
引き締まってきた自分の体型の変化に気づくことができる。
この週5日、毎日6千歩以上というハードルは結構高いですよね。
しかし、購入者にこのハードルを超えてもらい、
効果を実感してくれないと、継続利用・リピート購入は難しい。
また、店売りの商品であるため、販売員が購入後のフォローを
行うことには限界があります。
そこで、ワコールでは、Webサイトで購入者を支援するサービス
として
「スタスタ部」
というコミュニティ機能を構築しました。
スタスタ部に入部できるのは、購入者だけ。
入部(登録時)には、「商品番号」「製造番号」の入力が必須です。
入部すると、毎日の体調や運動記録を日記として残すことが
できます。個人専用ブログですね。
また、掲示板を使って部員間で情報交換が可能。
トレーニングボトム着用のコツや、効果的なエクササイズを
教えあったり、挫折しそうな人を励ましたり、励まされたり。
「愛のムチ プログラム」に参加することもできます。
スタスタ部に何日かログインせず、日記をつけるのをさぼると、
“あなたはもう2日もログインしていない!
家の中で丸くなっているうちに、お尻もおなかも
丸くなっちゃうよ”
といった、きついお叱りメールが飛んでくるしかけです。
でも、日記をきちんとつけ、愛のムチに耐えて無事卒業すると、
ポイント(マイル)がたまり、5万円の旅行券がもらえるチャンス
が与えられるという「インセンティブ」もあります。
スタスタ部の開設は06年7月です。
約5ヶ月後の現在(06年11月末)の部員数は、約1万人。
「愛のムチ プログラム」に参加したのは、その約半数。
スタスタ部の掲示板や、「愛のムチ プログラム」卒業生の
コメントは誰でも閲覧(見学)できますが、
かなり活発なコミュニティであることがわかります。
ワコール担当者によれば、「卒業者のコメント」が
キラーコンテンツになっているそうです。
(1日当たり150件ほどの新規のコメント書き込みあり)
卒業者のコメントは、要するに、ユーザーの「口コミ」。
トレーニングボトムを1ヶ月ほど着用した成果について
率直な感想が語られています。
つまり、薬事法により、企業側が示すことはできない
効果効用を顧客自らが代弁してくれているのです。
ワコールでは、スタスタ部の開設に当たり、
ターゲットユーザーを
「愛すべきなまけもの」
たちと命名。
単に、商品を売るだけでなく、購入後の継続着用と一定以上の
運動を支援する仕組みをWebで提供するトレーニングボトムの
商品群を
「Webサポート付き商品」
と位置づけているそうです。
現時点ではまだ、このWeb-CRMの成否の判断は難しいとのこと
でしたが、私としては、間違いなく「成功事例」だと思います。
投稿者 松尾 順 : 11:02 | コメント (2) | トラックバック
雑誌の創刊ノウハウから学ぶ
Webサイトは、「情報財」をくるむためのITベースのパッケージ。
その本質は、コンテンツ(情報)であってITではないですよね。
Ajaxなどを活用したどんなにすばらしい最新の機能であっても、
それは、「情報」を
見つけやすく、あるいは、わかりやすく、楽しくする
ためのものに過ぎません。
インターフェイスデザインやユーザビリティも同様。
つまり、あくまでも、「コンテンツ」(情報)が主役であり、
その他の要素は、すべて引き立て役だと言い切ってもいいと
思います。
「コンテンツこそキング」です。
ですから、機能、デザイン、ユーザビリティ以上に
コンテンツの質、量、鮮度には配慮しなければならないはず。
ところが、現実には、コンテンツがおざなりであったり、
更新が十分でないWebサイトが目に付きますよね。
これは、企業のサイト上の情報編集能力が弱いためじゃないかと
私は推測しています。
どの企業も、サイト構築自体は
外部制作会社に相応のお金を払ってやってもらうことをしますが、
不思議と運営については予算がほとんど計上されていません。
だから、外部のプロに頼むことができず、
内部で細々と片手間にやってしまうということになりがち
のようです。
結果的に内容的にもプアで、かつ更新されない情報が永久に
掲載され続ける「ゾンビサイト」になりがち。
そういう悲惨なWebサイトにしないために、
私は、週刊や月刊など、継続的な発行を前提とした雑誌編集の
ノウハウをWebサイト運営にもっと取り入れるべきだと日ごろ
から考えています。
そこで、今日は、ハーストマガジン前社長、ギル・モウラー氏
の雑誌創刊で成功するポイントをざっくりご紹介します。
(編集会議、2007.01)
「もっともすばらしい雑誌、最も成功している雑誌は、
人々が過去に望んだ情報を提供したりしない。」
「それらは、人々が将来望みそうなものを直感的に理解し、
雑誌に掲載している」
「すなわち、雑誌を作り出すものにとっては、それを雑誌に
表現できるか、できないかが、成功と失敗の分かれ道になる。」
モウラー氏はこのように語っていますが、
これは、雑誌にとどまらず、あらゆる商品開発に通底する原理原則
と言えますね。
モウラー氏の考える4つの「Don't」(してはいけないこと)
(1)自分のアイディアにほれ込んではいけない(現実的な限度を
超えて過大に将来を予測してはいけない)
(2)「ミー・トゥ・アイディア」(ものまね)で成功できると
考えてはいけない
(3)小さなターゲットに焦点を当ててはいけない
(4)経験より希望にかけてはいけない。現実離れした事業計画、
無料の宣伝といった希望はすべての誤りのスタート
(経験を通じて、現実的な雑誌運営を学べ)
そして、基本の10のルール。
(1)常に読者を意識する
(2)読者は常に一人である。一人の読者の姿を頭の中に明確に描く
(3)ターゲットの状況ではなく、ニーズを編集する
(4)「ライフスタイル」という文字を多用しない(なぜなら、
ぼやけた夢想家のようなイメージだから)
(5)雑誌のキャッチフレーズは、明確に、鋭く、簡潔に
(6)キャッチフレーズは具体的な安心感を与える効果のあるものに
(7)1音節の言葉が決め手。分からない言葉は絶対に排除すべき
(8)最初にカバー・ライン。まず最初に、表紙のカバー・ライン
にキャッチコピーを書く。それから該当する編集材料を作る
(9)誘い文句が重要。具体的には、どのように、なぜ、秘密、
告白、医者、豊富な、セックス、すばやく、今、簡単、
やせる、勝つなど。
(10)アートディレクションはさりげなく
上記についての細かい解説は省きますが、モウラー氏の言っている
ことを読むと、雑誌創刊は、事業立ち上げであり、
またマーケティングそのものでもあることがわかりますね。
投稿者 松尾 順 : 16:08 | コメント (2) | トラックバック
事前リサーチの効用
新規事業計画作成のためにさまざまなリサーチを行い、
入念なシミュレーションを繰り返す。
それでも、いざ実行に移してみると、
当初の事業計画通りに進むことはほとんどありません。
だから、事前のリサーチはやっても無駄だという極論を
言う人もいますね。
実際、実行段階を「テスト」とみなして、とにかく始めてみる。
そして、市場の反応を見ながらこまめにマネジメントサイクル
(Plan-Do-Check)を回し続けることができればリサーチは
それほど重要ではないかも知れません。
ただ、事前リサーチの意外な効用としては、
事業立ち上げの中で直面するであろう壁を乗り越える「勇気」を
与えてくれるというものがあります。
育児休業者や介護休業者の職場への復帰支援や、
保育所・託児所関連サービスなどの新規事業を手がける
(株)ワーク・ライフバランス。
同社社長、小室淑恵氏の日経新聞のコラム(私のビジネステク)
によれば、上記事業構想のため、100人以上の育児休業経験者
を探し出し、徹底的にヒアリングをしたそうです。
「職場復帰するつもりで育児休業を取ったのに、復帰後、
仕事についていけるか不安になり、離職を考えている」
「職場復帰できず会社を辞めてしまったが、その後悔があり
子育てを楽しめない」
小室氏は、こうしたさまざまな悩みや課題をしっかりと
リサーチした上で事業化を果たしました。
しかし、同社のサービスを企業に導入してもらおうと100社ほど
訪問しても、最初の1年間はまったく話を聞いてくれなかった
とのこと。
景気が悪かったこともあり、
「福利厚生を削減しているくらいなのに、
育児休業復帰支援なんて考える余裕がない」
という企業が大半でした。
さすがに100社に断られると、小室氏も
「もしかしてニーズがないのかな」と自信が揺らぎました。
そんな小室氏を支えたのが、
徹底した事前リサーチでした。
「あんなに悩んでいる人たちがいたのだから、
必ずニーズがあるはず」
と、自分の事業に対する自信を取り戻すことができたそうです。
現在、育児支援に対する企業の関心も高まり、
同社のサービスは企業に浸透しつつあるようですね。
投稿者 松尾 順 : 11:08 | コメント (2) | トラックバック
シンプルマーケティング(13)ケーススタディ:午後の紅茶リニューアル
プロダクトコーンは、基本的には
規格→ベネフィット→エッセンス
と訴求の対象が移行していきますが、
「エッセンス」まで到達した後は、再び「規格」に戻るという
サイクルになることが多いそうです。
この典型的なケースが「午後の紅茶」でしょう。
キリンの「午後の紅茶」が、世に出たのは1986年でした。
当時私は学生でしたが、甘さ控えめのさっぱりした味が好きで
よく飲んでいたのを覚えています。
さて、発売20周年に当たる今年の2月、
キリンビバレッジは、「午後の紅茶」のリニューアルを実施。
前年比20%増のという大幅な売り上げを記録しています。
(日経情報ストラテジー、JANUARY 2007)
NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」にも登場した
同社マーケティング部長、佐藤章氏によれば、
「20年続く食品ブランドが前年比で20%も伸びたのは過去に
例がないのでは・・・」
と大喜び。
今回のリニューアル成功の理由は、これまでの
「OL向けの上品な飲み物」というイメージ(エッセンス)を
訴求するのではなく、ターゲットを中高年層に置き、
「実はヘルシー」
という新たなコンセプトに基づいて、
午後の紅茶の「規格」を前面に打ち出したことにあります。
「午後の紅茶」は、元々
・低カロリー
・無着色
・低脂肪
という規格を有していました。
こうした「午後の紅茶」の特徴は、
近年の健康志向や、食品の安全性に対する意識の高まりに
合致する好ましい「規格」だったわけです。
ところが、長年イメージ重視のコミュニケーションを
続けてしまったために、消費者が持つ知覚品質はゆがんだもの
になっていました。
「カロリー高そう」
「着色料を使っているのでは?」
「甘すぎるのでは?」
そこで、今回のリニューアルでは、
「午後の紅茶」がヘルシーな飲み物であることを「規格」を
語ることで証明し、健康を気にする中高年層を取り込むことに
成功しました。
実は、リニューアルを行うに当たっては、
担当の藤川主任と佐藤部長が、方向性の違いで対立しています。
藤川主任は、当初、従来のイメージ路線を踏襲。
「最高大人品質」というキーワードで味を見直し、
「20年目の新発見」というキャッチコピーを付けた
広告・プロモーションを行う計画を立てていました。
これに佐藤部長が「ヘルシー路線」を打ち出して反対。
「何を新発見したんだ。ネタがないだろう。
大人のムードを出すだけで買ってもらえるほど甘くないぞ」
と藤川主任に再提案を指示しました。
そこで、藤川氏は、
お客様相談室(コールセンター)の顧客データベースから、
午後の紅茶についての「不満情報」の洗い出しを行いました。
興味深いことですが、これまで午後の紅茶は6回もリニューアル
しているにもかかわらず、上記顧客データベースに蓄積された
顧客の生の声を参考にしたことは、ほとんどなかったそうです。
藤川主任は、顧客の不満情報を分析した結果、
「顧客が飲むのをやめてしまったのは、20年の歳月の中で
午後の紅茶が不健康な飲み物であると思い込んでしまった
からではないか」
という仮説にたどりつきます。
この仮説は、合計18人の消費者対象グループインタビューで
間違っていないことが検証されました。
そして、今回のリニューアルの新コンセプト「実はヘルシー」
に結実したというわけです。
ヒット商品を生み出す達人、佐藤部長は、
ひょっとして「シンプルマーケティング」の愛読者かも
知れません。(^o^)
*佐藤部長の「プレゼン術」について以前、このメルマガ&
ブログでも書きましたね。
こちらです>「合脳的プレゼンテーション」
投稿者 松尾 順 : 10:35 | コメント (4) | トラックバック
マンガ家のリサーチと分析
「まじかる☆タルるートくん」「東京大学物語」など
80年代にヒット作を連発。
一連の作品の累積印税は、なんと16億円!
マンガ家江川達也氏は、
上記のようなヒット作を生み出せた鍵は、
「リサーチと分析」
にあったと言います。
(「アイディアの鍵貸します」、フジテレビより)
週刊ジャンプに「まじかる☆タルるートくん」を連載中、
読者からの人気アンケートの結果を「横折れ線グラフ」化。
そして、グラフの下には各回の内容を記入して、
どんな内容を取り上げた時に読者の人気が高かったかを
分析したそうです。
たとえば、人気の高かった回の内容は次のようなもの
・ちょっとエッチ!
・ホームランを打った
・肝だめし
要するに、江川氏は、
どんな内容が読者に受けるかを客観的な数値(人気アンケート)
で確認した上で、
「このテーマだと読者が喜ぶだろう」
という仮説を立て、
次回以降のストーリーを組み立てていったわけです。
ちなみに、ジャンプの場合、同誌の基本コンセプトである、
「友情」「努力」「勝利」
を扱った内容の受けがよく、とりわけ、
これまで敵だったキャラクターが、何らかのきっかけで友に
変わるという展開が好まれるそうです。
江川氏のやった「リサーチと分析」は、
手法自体はとてもシンプルなものですよね。
でも、自分の描きたいものを描く
「作品」
ではなく、
読み手(書い手)が求める
「商品」
を生み出すために、読み手についての客観的データを
活用したというのが、なかなかすごいことだと思います。
実際、こんなシンプルな分析でさえ
日常業務の中では、案外実行しないですよね・・・(^o^)
そうそう、無理に宣伝につなげる気はありませんでしたが、
日常業務の範囲で手軽にできるリサーチと分析方法を
解説した記事が「@IT」に連載されています。
ぜひのぞいてみてください。
私も執筆者の一人です!
投稿者 松尾 順 : 18:22 | コメント (1) | トラックバック
旅行のクチコミサイト フォートラベル
先日、@NBC勉強会で、現在急成長中のネットビジネス、
の社長、津田全泰さんの講演を聴く機会がありました。
フォートラベルの設立は2003年10月。
2005年に「カカクコム」の傘下入りをした新興ネットベンチャー。
現在、スタッフ数は、契約、アルバイト含み21名です。
売り上げは年商3億円を超え、儲かってます!
同社の収益源は広告。
いわゆる純粋な広告掲載からの売り上げが半分、残り半分は、
クリック課金型や成約ベースの広告(アフィリエイト)です。
フォートラベルのWebサイトは、
「旅行情報」
を提供することで旅行好きのユーザーを集客し、
JTBなどの旅行会社や、ホテル、航空会社などの
「旅行予約サイト」に誘導する各種広告を掲載する
というのがビジネスの基本的な仕組みです。
要するに、「旅行情報誌」のネット版です。
既に、このカテゴリーでは、
大手の「るるぶ.com」「AB-ROAD.net」などを抜き、
最大のユーザー数を獲得しているそうです。
さて、同サイトの場合、旅行情報は、旅行会社などから
提供されたものではなく、基本的に一般消費者の
「旅行体験記」で構成されているというのが特徴です。
同サイトの「トラベラー会員」として登録すると
自分専用の「旅行ブログ」が開設でき、
自分が行った旅行の体験を書いて公開することができます。
また、ブログという形ではなく、ハワイなど観光地について
自分が知っている情報を「クチコミ情報」として投稿すること
ができます。
つまり、旅行者自身の「クチコミ」が集積されているのが、
フォートラベルなんですね。
トラベラー会員は、現在2万5千人ほどですが、
掲載されている旅行記は10万件(冊)、旅行写真は150万枚、
クチコミ情報は4万件の規模に達しています。
一見、ユーザー数はそれほど多いとは感じられません。
しかし、それでもこれだけのクチコミ情報が集まり、
メディアとして十分な広告収入を生み出すことができるんですね。
フォートラベルのような、
多種多様、ある意味雑多なクチコミ情報をベースとするビジネス
の成功のカギは何かおわかりでしょうか。
それは「情報編集力」です。
そのままでは使いづらい生のクチコミ情報を
わかりやすい切り口で整理し、参照しやすい、検索しやすい形に
情報を加工してサイト訪問者に見せてあげることが重要だという
ことです。
この点について津田さんは、次のように言ってました。
会員から投稿された情報はそのままでは
「CGC(Consumer Generated Content)」
に過ぎない。
つまり、ただ情報が溜まっているだけの状態であり、
フォートラベルでは、こうした情報を自動・手動編集することに
よって、「メディア」としての価値を持つ
「CGM」(Consumer Generated Media」
に変えていくノウハウが強みです。
なお、類似の先行事例には化粧品のクチコミサイト
「@コスメ」
がありますね。
蛇足ながら、実は、フォートラベルとほぼ同じビジネスモデル
を構想していた友人がいました。
企画書を見せられたのは2002年頃だったように思います。
仮のサイトもいちおう立ち上げてましたね。
当時彼は大手企業に勤めていて、片手間にやろうとしていたよう
ですが、やはり両立は難しかったようです。
フォートラベルは、最初の1年半くらいは、
津田さんともう一人の創業者の2人でがんばっていたそうです。
事業成功のもうひとつの鍵は、当事者の熱意、覚悟にあることを
痛感させられますね。
役に立つ情報
相手の信頼を得るには、
相手に役に立つ、特になる情報、アドバイスを提供すること。
ビジネスにおける最も重要な基本行動がこれでしょう。
特に、顧客以前の「見込客」との信頼関係形成には
この基本行動を継続するのが最善の策です。
このことに私が気づいたのは、
広告会社に在籍していた10年ほど前のことでした。
そこで、同広告会社のWebサイトのリニューアルに合わせて、
メールマガジンの発行(月刊)を開始しました。
目的は、メールマガジンを通じ、
見込客、顧客にとって役に立つ情報を継続的に提供することで
「信頼できる会社」というブランドイメージを醸成すること。
そして、セミナーのお知らせなどは最小限にとどめていました。
ただ、そのメールマガジンの発行を開始してから
わずか半年ほどして私は某ネットベンチャーに移ったため、
早々と発行を同僚に引き継ぐことになったんですが・・・
ちょっと無責任ですよね・・・
(引き継いでくれたKさん、ありがとう)
現在も同広告会社のメールマガジンは、
種類を増やしつつ継続して発行されており
相応の効果を上げているようです。
そういえば、コミュニケーションを扱うマーケティング業界の
会社でありながら、メルマガのようなツールを自ら活用できて
いるところは意外と多くないですね。
さて、私自身、広告会社退社直後から、
個人で週刊メルマガの発行を開始しましたし、
1年前からは、こうして平日日刊のメルマガ&ブログを通じて
「役に立つ情報」(だといいのですが・・・(^_^;)
を継続的に提供してきてるわけです。
実は、製薬会社の営業担当(「MR」と呼ばれます)においても
このような基本行動が、営業成績に大きな差をもたらします。
私のもうひとつの専門領域である人材(育成)管理の専門用語で、
成果につながる行動パターンは、
「コンピテンシー」
と言われますが、MRの平均的業績の人と高業績の人の差を
調査した結果、次のような違いがあったそうです。
平均的業績の人たちは、とにかく「顔を売る」行動に
終始しがちでした。
キーパーソンのドクターに会えるまで延々と待ち、
ドクターが忙しい場合には一言挨拶して帰ってくる。
一方、高業績のMRは、
医局をたずねてドクターがいなかった場合は、
何か「役に立つ情報」を置いてくるという行動を取っていました。
つまり、高業績のMRは、
「ドクターのほしい情報をタイムリーに提供して存在感を増す」
ことが業績につながることを確信しており、
ドクター待ちに無駄な時間を費やすのではなく、
営業活動のかなりの部分を情報収集や資料づくりに
時間を割いていたのです。
よく考えてみれば、ただ単に「顔を売る」ために
ドクターを待つのは、頭も使いませんし楽な行動ですね。
でも、医局でずっと待ち続けているわけだから、いちおう仕事を
しているように見える。
一方、役立つ情報を提供するのは、頭を使いますし、
事務所でPCに向かっていたりして、一見営業をさぼっているように
見えるかもしれませんよね。
しかし、人からどう見えるかは、実際どうでもいいことですし、
成果につながらなければ意味がありません。
このような話は、あらゆる業界で見聞きしますね。
顧客に役立つと思う資料づくりのためにずっとデスクに座って
いると、営業部長などから
「昼間に社内にいるんじゃない、営業は外回りしてナンボだ」
などと叱責される。
しかし、昔のように手ぶらで日参したところで
迷惑がられる時代です。
「顔を売る」だけで通用したのは高度成長期まで。
今は、成果につながる最も重要な基本行動は、
相手に役に立つ行動をすること。
最近、これを
「アドボカシーマケティング」
と呼ぶ人もいるようです。
投稿者 松尾 順 : 13:54 | コメント (2) | トラックバック
家族を楽しむ
このところ、幼児~小中学生の子どもを持つ30-40歳代の親を
ターゲットにした「育児・教育誌」の創刊が続いていますね。
(PRIR、2007 January「シリーズメディア研究」)
具体的には次の5誌が挙げられます。
「日経Kids+」
「プレジデントFamily」
「edu」
「AERA with Kids」
「FQ JAPAN」
上記のような最近刊行された「育児・教育誌」の特徴的な点は、
従来の子育て、教育を扱った雑誌のメインターゲットが女性
だったのに対し、男性がメインターゲットになっているものが
出てきたことです。
これはもちろん、子育てや教育に積極的に関わっていいたいと
考える男性が増加しつつあることの反映だと言えるでしょうね。
PRIRの記事では、時事通信社調べのアンケート
「父親の育児参加に関する意識調査」
の結果が紹介されてますが、
‘母親と育児を分担して積極的に参加すべき’
との回答が、20歳代では約50%、30歳代で40%超に達します。
(50歳代では、同約20%、40歳代で同約30%)
すごいですね。
20歳代の男性の2人に1人は、
育児に積極参加したいと考えているわけです。
口先だけじゃなくて、ほんとに育児参加できるのかい
などと、40歳代の私なんかは思ってしまうのですが、
ともあれ
「育児のことは妻に任せる」
という古い考えの持ち主は、
近い将来、少数派になる可能性が高いですね。
さて、同記事の中で、絵本作家/キャラ研の代表取締役社長、
あいはらのりゆき氏は、家族のあり方が変容しつつあるのでは
ないかと指摘しています。
企業と社員との関係のあり方が変化し、
父親が、以前のように会社に依存したり、
会社の中に自分の存在価値を見出すことが難しくなったこと。
一方で、子どもに関する事件やいじめなど、
母親だけで解決できない問題が増加してきたこと。
こうした状況に直面し、父親はただ収入を得ればよい、
威厳を保っていればよいという存在にとどまらず、
家庭をいかに営むかを考えるようになってきたわけです。
また、あいはら氏は、
「親自身も子育てや教育を楽しもうという意識が
生まれているのではないか」
「父親・母親はかくあるべし、
という固定概念に囚われることなく、
自分たち家族の楽しみ方や幸せを目指す、
という家庭は今後も増えていくと思います」
とも述べています。
収入格差・生活水準格差の広がりという懸念材料は
あるものの、おおむね物質的には充足された日本では、
人生も仕事も家族も、
「いかに楽しむか」
がこれからのメインテーマであることは間違いないと思います。
投稿者 松尾 順 : 10:34 | コメント (2) | トラックバック
シンプルマーケティング(12)生活者のイノベータ度とプロダクトコーン
さらにプロダクトコーンの話。
なんたって、シンプルマーケティングの中核理論ですから。
プロダクトコーンは、商品を3つの要素(切り口)、すなわち
・規格=企業側の商品定義(ハードな定義)
・ベネフィット=生活者の得するコト、モノ(ソフトな定義)
・エッセンス=商品が持つ性格(擬人化)
で見るものでした。
そして、このプロダクトコーンの3要素を
どのような順番で訴求するのが効果的なのか?
これについては、既に
シンプルマーケティング(9)プロダクトコーン理論:訴求の順番
でご紹介してますね。
商品の特性や市場環境(プロダクト・ライフサイクル)
を考慮しなければなりませんが、基本的には、
「規格」→「ベネフィット」→「エッセンス」
と移行していきます。
シンプルマーケティングでの森さんの説明によれば、
新技術を応用した商品や新規産業の場合、
「規格」を優先的に訴求して商品の説明をし、
生活者が安心して商品を買えるような基盤を作る
ことが重要です。
そして、産業が成長期にさしかかり、
技術に格差がなくなった時点で「ベネフィット」を訴求し、
さらに「ベネフィット」が普及した時点で
「エッセンス」を訴求していくのが効果的だそうです。
ただ、一方で対象となる
「生活者のイノベータ度」
も理解し、考慮しておく必要があります。
いわゆる「イノベータ理論」、
これは、簡単に言えば、
生活者の新技術や新商品に対する購買行動の差を
示したものですが、シンプルマーケティングでは次の
3つのタイプにシンプル化されています。
・イノベータ
・アーリ・アダプタ
・フォロワー
新商品が出ると、真っ先に飛びつくのがイノベーター。
「PS3」をゲットするために、
寒い中徹夜して量販店に並ぶような人たちのことです。(笑)
イノベータに続いて、「アーリ・アダプタ」が買い、
フォロワーは周囲の評判を確かめた上で、
おっとり刀でそろそろと買い始める。
イノベータは、対象商品に詳しく、関心の高い人たちです。
購入判断は自分で行うことができます。
一方、フォロワーは、対象商品の知識をあまり持っておらず、
購入に当たって、他人の意見・推薦に頼りがちです。
ですから、訴求対象が「イノベータ」なら、
商品の
「規格」
を説明してあげればいい。
彼らは、「規格」を見て、
その商品がいいか悪いか判断できるからです。
一方、「フォロワー」が訴求対象なら、
「エッセンス」
を説明しなければなりません。
フォロワーは「規格」だけで商品を判断しません。(できません)
したがって、企業が、規格からベネフィットを翻訳し、
さらにベネフィットからエッセンスを導き、
商品にどんな「イメージ」があるのかまで伝える。
こうやって初めて、フォロワーは購入に動いてくれます。
森さんによれば、
プロダクトコーンの訴求のサイクルと、
生活者のイノベータ度の3タイプは表裏一体であり、
この流れをいかにつかむかが、
ヒット商品をつくり、育てるためのキーポイントの一つ
だそうです。
◎シンプルマーケティング
(森行生著、ソフトバンククリエイティブ)
投稿者 松尾 順 : 13:41 | コメント (4) | トラックバック
企業サイトに群がるネットユーザー
10月26-27日に開催された
「NTT Communications Forum 2006」
の講演の模様が、ストリーミング配信でアップされ、
誰でも無料で閲覧できるようになってます。
スケジュールの都合で出席できなかったリアルなセミナーも
こうしてネットで公開されていれば、いつでも
自分の好きな時に「オンデマンド」で見れますから便利ですよね!
余談ながら、オンライン上で実施、公開されるセミナーを
「Webiner」(ウエビナー)
と米国では呼んでますが、日本では、
まだ一部で使われているだけであまり浸透してませんね。
少なくとも日本語としての「ウエビナー」は、
ちょっと語感がよくないですよね。
さて、余談はこのくらいにして、上記フォーラムの話。
いくつかの講演のうち、
「Web2.0で始まるビジネススタイルの変貌」
と題して講演された
ネットレイティングス株式会社社長の萩原雅之さんの
データを駆使した話が相当面白かったです。
萩原さんの話を聞いて改めて驚いたのが、
ネットユーザーのサイトアクセス行動の変化
です。
中でも、
エンドユーザー(一般消費者)における
企業サイト訪問者数の伸び
が驚嘆です。
萩原さんのプレゼン資料は、
上記サイトからダウンロードできますが、
その4ページには、
サントリー、キリン、日産、本田技研
の4サイトの
2000年4月から2006年9月までの月別訪問者数推移
のグラフが掲載されています。
これを見ると、各社とも2000年4月頃は、
月あたりせいぜい10-20万人程度の訪問者でした。
ところが、2006年直近になると、
サントリー、キリン、日産の月間訪問者数は約200万人と、
この6年間で10倍以上に増えています。
(本田技研も、180万人/月くらいまで来てます)
要するに、大企業のサイトになると
200万人もの膨大な数の消費者が直接、
商品情報、企業情報を取りにきているということです。
今や、企業と消費者は、
サイトを通じたダイレクトなコミュニケーションを
これだけの規模で頻繁に行っているんですね。
ネット以前の商品情報、企業情報の入手ルートが、
店頭、企業が作成した商品パンフや会社案内、
そしてマスメディアにほぼ限定されていたことを考えると、
現在は、企業と消費者のコミュニケーションのあり方が
まったく異なる次元に入ったことを示していますよね。
そして、こうした変化で直観的にわかることは、
「Webサイトを軽視している企業に未来はない」
ということでしょうか。
投稿者 松尾 順 : 17:12 | コメント (4) | トラックバック
「R25」の仕掛け
昨日に続いて今日も「R25」を取り上げます。
一読者としてなにげに読んでると気づきませんが、
誌面構成はかなり緻密な計算に基づいて練り上げられたものです。
ご存知の方もいらっしゃると思いますが、「R25」は、
「帰りの電車の中で読んでもらう」
ことを前提に作られています。
「M1層」、つまり20-34歳の男性が都心の職場を
夜8時前後に出て、駅に向かう途中で「R25」をピックアップ、
電車に乗ったら読み始めるというのが、正しい作法です。(笑)
最初の方のページは、政治、経済、ITなど幅広いテーマを
取り上げた「ランキンレビュー」。固い内容です。
まだまだ気持ちは、
「ビジネスONモード」
ですから、フムフムなどとちょっと難しい顔をしながら
ちょっと賢くなった気分を味わう。
そして、ブックレビューを経てインタビューのページへ。
少し話題がやわらかくなってきます。
インタビューに登場するのはだいたい30-40代の有名人。
ちょっと勇気をもらう。元気になる。
さらにページをめくると、
ますますテーマがこなれてきますね。
鈴木おさむ氏の「胸キュン短歌」、さぼれる場所がわかる
「SAH"OL」など脱力系コンテンツのおかげで、
気持ちが徐々に
「プライベートOFFモード」
へと切り替わっていきます。
自宅の最寄り駅に着くころには、ちょうど
コンビニの新メニュー比べのコーナーを読んだばかり。
駅の改札を出たら、いつものコンビニに立ち寄って、
早速新メニューをチェック、勢いで購入。
家に着いたらすぐさまテレビとPCオン。
R25の深夜番組表で見たい番組はすぐわかります。
PCやケータイWebですぐに手に入る通販商品のページ
もなかなか購買意欲をそそります。
というわけで、「R25」は、
「M1層」の帰宅時の行動パターンに完全に
沿った形で誌面が構成されていたというわけです。
ポイントは、具体的な購買行動に結びつけるように
読者の気持ちを変化させていくこと。
具体的には、次の4つのキーワードを意識して
「R25」は作られているそうです。
・アテンション・・・「あ、そうか」(今と向き合う)
・モチベーション・・・「よしがんばろう」(勇気が出る)
・インビテーション・・・「これ、やりたい」(動機付けられる)
・アクション・・・「やってみよう」(消費に向けて動き出す)
私は「R25」世代ではないので、実のところあまりピンと
来ませんが、「R25」世代の人たちはやっぱり
まんまと乗せられちゃってるんですかね?