ペルソナデザインの専門サイトオープン!

「ペルソナデザイン」の専門サイトが今月オープンしてます!
(日経デザインの広告で知りました)

*personadesign.net


運営企業は、m.c.t(Marketing Communication Technology)。


私は、同社とはなんらつながりはありませんが、
「ペルソナ」に絞ったサイトは日本では初めてですし、
コンテンツもなかなかわかりやすくまとまっているので
簡単にご紹介したいと思います。


「ペルソナ」については、私も以前このメルマガ&ブログで
書きました。

*できるだけリアルな顧客の仮面をかぶる方法

また、シナプス・マーケティング・カレッジで
講師を務める「Webマーケティング」では、
サイト設計のツールとして「ペルソナ」の考え方を受講者に
ご紹介しています。

実際、「ペルソナ」はとても有効なプランニングツールだと
考えています。実務でも利用してますし!


さて、personadesign.netでは、
ペルソナを次のように定義しています。

「企業が提供する製品・サービスにとって最も重要で
 象徴的な顧客モデル」

そして、「ペルソナデザイン」とは、

「上記の顧客モデルを作ること」

です。


ペルソナデザインの狙い(目的)は、

・企業として本当に大切にしなければならないユーザを
 明確にする
・ユーザーを、具体的に、深く、ひとつの物語として、
 理解する
・ユーザ自身でさえ気づいていないニーズを発見する

と説明されています。

これだけだとちょっとわかりにくいかな・・・


私は、シナプスの講座では次のように説明しています。

従来のターゲットの想定は、

「仕事を持つ20代の女性」

といった大きなくくりに止まっていることが多いですね。

でも、これでは、おおざっぱすぎて、
ユーザーのライフスタイルやニーズが明確に見えてきません。

ペルソナでは、象徴的な顧客像(モデル)を詳細に設定
することによって、より具体的で明確な顧客イメージを
ベースにしたプランニングができます。

結果として、よりターゲットのライフスタイルやニーズに
合致した、エッジの効いたデザインやコンテンツ設計が
可能になります。


どのくらい詳細に顧客像を設定するかというと、

名前、年齢、身長、体重、体型などから始まり、職業、
住居形態、家族構成、学歴、年収、趣味、保有車、
食事の好み、飼っているペット、などなど。

ケースバイケースですが、ターゲット顧客の毎日の生活が
ありありと浮かぶくらいの詳細な記述を行います。


Personadesign.netには、
ペルソナの歴史(ヒストリー)も掲載されていますね。

どうやら、99年以前にアップルが、
インターフェイスデザインにペルソナを採用したのが
始まりのようです。

また、2005年の10月の時点では、
Fortune500の企業がWebサイト構築を依頼している
“ベスト12社”のすべてがペルソナデザインを活用

とあります。
(“ベスト12社”というのは、Web制作会社のことでしょう)


上記サイトには、米国の調査会社フォレスターリサーチ社の
ペルソナ関連のレポートも一部紹介されていますので、
Web制作に関わっている方は一度のぞいてみたらどうでしょう。


11月1日に“日本初”の

「ペルソナデザインのセミナー」

も開催されるようです。


事例のコーナーが、準備中なのが残念ですけど・・・

投稿者 松尾 順 : 06:09 | コメント (0) | トラックバック

「隠す」のではなく、「さらす」開発


数日前に、「ロバストデザイン」という考え方をご紹介しました。

>>「ロバストデザイン」


これは、新製品開発に当たっていいコンセプトが生まれたら、
ともかく早めに「形」にして、ユーザーに試してもらい、
問題点、不足点を聞きながら市場で、製品改良を進めていくという
やり方でした。

こうすることで、ターゲットユーザーの「最新」のニーズに
最も適応した製品、つまり、競合他社商品の挑戦にも強い
「ロバスト」(頑健)な仕様(デザイン)が実現できるという
わけです。


実は、スバル(富士重工業)が、
新型軽乗用車「ステラ」の開発に当たって採用した市場調査の
新手法が、かなりロバストデザイン的なアプローチを採用したもの
でした。(日経産業新聞、2006/09/26)


通常、新型車の開発は極秘裏に行われ、ユーザーに見せるのは
デザインが確定した時か、試作車完成時くらいです。

しかし、「ステラ」の場合、構想段階からユーザーへの聞き取り
調査を行い、また、初期のデザインや模型を見せて、
ターゲット層の反応を継続的に把握しました。


興味深いのは、この調査の過程で、
開発者の思い込みがユーザーの反応によって
しばしば覆されたことです。

たとえば、企画段階では、

「室内空間をいかに広くするか」

を議論のベースに検討を行っていました。

この考え方の前提には、

「室内空間は、広ければ広いほど良い」

という思い込みがありますよね。


しかし、調査した子育て中の女性などからは、

「後ろに乗せている子どもとの距離が遠すぎる」

「後部座席に置いている荷物が取りにくい」

という思わぬ回答が出てきました。

つまり、

「室内空間は、広ければ広いほど良いというわけではない」

ということがわかったわけです。


結局、ステラの場合、室内長を当初案よりも30ミリ短縮。
スライド式の後部座席を運転席から気軽に引き寄せられる
ことも可能にしました。

「ステラ」は、今年2006年6月発売ですが、
売れ行きはなかなか好調のようです。


さて、製品開発にしろ、
マーケティングコミュニケーションにしろ、
大事なのは「顧客視点」ですよね。

これは、

「お客様のためにどうしたらいいか?」

という発想ではなく、

「自分が顧客だったらどうして欲しいか?」

という顧客の立場で考えるということです。


でも、実際のところ、これはとても難しい!

自分が開発者、企画者の立場にいると、
不思議と顧客側に立つことがなかなかできない。


だとすれば、開発初期の段階からターゲットユーザーを
巻き込むのが得策ということになります。

ダイレクトに顧客の声を聞けば話は早いですから。


スバルでは、情報漏えいのリスクをあえて犯しても、
初期の段階からターゲットユーザーに情報を

「さらす」

開発手法を今回採用したわけです。


やや逆説的に聞こえるかもしれませんが、

「競争優位性」を長く維持できる、
ユーザーニーズに最適応した製品を世に送り出すためには、

「隠す」

のではなく、むしろ

「さらす」

ということが有効な時代になってきたと
言えるでしょうか。

投稿者 松尾 順 : 10:26 | コメント (0) | トラックバック

人に読まれるブログ

楽天市場で、4年連続ベスト店長賞を受賞した

「成田ゆめ牧場」

というオンラインショップはご存知ですか?


看板商品の超濃厚アイスはいかにもおいしそうですね!

また、「ゆめ牧場の手袋」というハンドクリームが
一時期大ブレイクしました。


同店の場合、発行している「メルマガ」の人気がすごく高くて、
私も一時期メルマガを購読してました。

読んだことのある方はおわかりでしょうけど、
「メルマガ」は、桁外れにおバカな乗りで書かれています。
(もちろん計算されたものでしょう)

また、自衛隊からもらった

「夕焼け空を背景に砲弾を発射する戦車」

の写真をプレゼントするなど、一風変わった企画をやってました。

さすがに、私は、あまりのノリの軽さについていけなくて、
今は購読をストップしています・・・


この「成田ゆめ牧場」オンラインショップの初代店長を務め、
人気店に育て上げたのは竹内謙礼さんという方です。
(面識はありません)

竹内さんは、実は、元は某出版社の編集者。
やはり文章のプロだからこそ、ユーザーの食欲・購買欲をそそる
キャッチコピー、メルマガが書けたんだなと改めて納得。


先日、竹内さんが出した新刊があることを知り、
早速読んでみました。

「頭がいい」と思わせる文章術
(竹内謙礼著、PHP出版)

ブログやメルマガを書いている人にとっては、
すぐに実践できる具体的なノウハウが紹介されています。
しかも、とても読みやすくわかりやすい。
一読の価値ありです。


さて、この本の中で特に面白いと感じたのは、
竹内さんの考える

「人に読まれるブログ」

の条件です。


竹内さんによれば、
「人に読まれるブログ」は次の5種類しかないそうです。

・有名人のブログ
・匿名のブログ
・お金儲けのブログ
・裏話のブログ
・アダルト関連のブログ

(私の理解では、竹内さんの言う「人に読まれるブログ」
 というのは、「一般大衆に広く読まれるブログ」
 という意味のようです。)


そして、竹内さんは、上記5種類以外のブログは、
よほどのことをしない限り、ビジネスに結びつくような
ツールにはならないと言い切っています。

本書を読むとわかりますが、
ここで竹内さんが言ってる「ビジネスに結びつく」というのは、
ダイレクトに収益を生み出すという意味(物品・サービス販売や
広告収入などによって)のようです。


確かに、広く人口に膾炙していること、つまり、
大規模な訪問者を抱えているブログやメルマガだけが、
確率論的に言って高い収益を生み出すことができます。

私は、この竹内さんの意見に100%賛同するわけでは
ありません。単に「儲かる」だけのために、
誰もが上記5種類のどれかに該当するブログをやりたいとは
思わないですよね。


ただ、書くからにはやはり、

できるだけ多くの人に読んでもらいたい

というのはほとんどのブロガー、メルマガライターの
気持ちでしょう。


竹内さんは、
ブログ(メルマガ)を読んでもらうための条件として
次の2つを上げています。

「内容の必要性」と「最低限の読みやすさ」です。


読みやすさは当然のこととして、
「内容の必要性」というのは、

読み手にとって必要としている情報であるかどうか

ということです。

要するに、ターゲットとしている読者層が喜ぶ
まだ知らない新鮮な情報、役に立つと思ってもらえる情報を
継続的に提供できることが重要なんですね。


私のメルマガ、そして連動させているブログも、
この「内容の必要性」を最も重視して書いてきましたが、
どの程度達成できているでしょうか?

時々は、「役に立ったよ」という直メールを送ってくださる方
もいらっしゃるので、まったくの無価値な情報を垂れ流して
いるわけではなさそうだと思ってますが・・・


そうそう、ブログの方は、
おかげさまで最近は1日あたり2,000人前後の方に
おいでいただけるところまで育ってくれました!

ごひいきにしてくれてる皆様、本当にありがとうございます!!

投稿者 松尾 順 : 11:18 | コメント (2) | トラックバック

CRMについての基本的な誤解

「目標管理制度」を導入されている企業にお勤めの方、
結構多いと思います。

「松尾くん、君の今期の売上目標達成やばそうじゃないか、
 大丈夫か!」

なんて上司にプレッシャーかけられたりして、
目標管理制度には、いやーな感情を持つ人が
多いんじゃないでしょうか。


こんなネガティブな感情を持ってしまうのは、
目標管理制度の「運用」が間違っているからだと言われています。

運用の間違いは、目標管理とは、

「目標を管理することである」

という勘違いから来るものです。

この勘違いのままだと、上司は、
「目標」と「実績」との乖離ばかりに焦点を当ててしまうのです。
そして、「目標めざしてがんばれ」としか言わない。

これは管理ではありませんよね・・・
ただがんばれと言うだけなら、小学生だって上司が務まります。

部下は、どうしていいかわからずおろおろするだけ。
やる気も下がります。


実は、目標管理制度の真の管理対象は、「目標」自体ではなく、

「社員の活動」

です。

セールスパーソンなら、当然ながら

「自分の営業活動」

が管理対象です。

ですから、「目標」とは、営業活動の成果を示す指標であり、
営業活動管理のためのツールとして使うものにすぎません。


この正しい理解ができている上司は、「目標」自体ではなく、
「目標」と「実績」を判断材料にしながら、
どんな営業活動をすることが効果的なのかということに
フォーカスします。

そして、今後の具体的な営業活動計画に落とし込めるよう
部下をコーチングします。

その結果、部下のアドバイスを受けつつ、
やるべきことが明確になった部下は、
やる気いっぱいで、明日からの営業活動に臨めるというわけです。


「目標管理制度」は元々米国から輸入されたものであることは
ご存知かと思います。英語では

「MBO:Management by Objective」

であり、この英語に忠実に和訳すると、

「目標による管理」

となります。

これなら、「目標を管理すること」という勘違いは
起きなかったと思いますよね。

ですが、「目標管理」という短い言葉にしてしまったが故に、
上記のような勘違いが起き、運用が不適切に行われ、
結果、社員には嫌われ、やる気を阻害する逆効果の制度に
なってしまいがちなわけですね。


さて、類似の根強い誤解が「CRM」にもあります。

それは、CRMは、

「顧客を管理すること」

という解釈です。


この発想自体、そもそもとてもおこがましいことですよね。

顧客を柵の中に囲い込む、そんな独りよがりの考えが
ちらついています。

この考え方からは、顧客データベースを構築して
顧客データを蓄積・管理すればよいというソリューションしか
生まれてきません。


しかし、CRMは顧客を管理することではありません。

CRM(Customer Relationship Management)は、
英語を直訳すれば、「顧客関係性管理」となります。

つまり、「顧客」ではなく「顧客との関係性」がキーワード。

ですが、CRMは、

「顧客との関係性を管理すること」

でもありません。

目標管理制度と同様、CRMの真の管理対象は、

「企業のコミュニケーション活動」

です。

具体的には、広告・販促活動や、Webサイト、コールセンターなど
各種コンタクトポイント(顧客接点)における自社スタッフの
コミュニケーションをどう改善していくかが主眼です。

そのための成果指標として、ツールとして使うのが、

「顧客との関係性」

です。、わかりやすく言えば、
どれだけロイヤルなお客さんが増えたのか、減ったのかということ
を判断材料に、自社のコミュニケーションを管理(コントロール)
していくのがCRMであるわけです。


いかがでしょうか。

上記のように考えれば、「CRM」は単なる流行語でも、
概念論でもなく、本来、企業のマーケティングコミュニケーション
を良くしていくことができる優れた管理手法であることが
おわかりになるんじゃないでしょうか。


ですから、「CRM」に対する誤解を解くためには、
やや説明口調でわかりにくくはなりますが、

「顧客関係性によるコミュニケーション管理」

という言い方をするのがいいでしょうね。

英語では、

「Communication Management By Customer Relationship」

です。

ともあれ、最低でも、

管理する(できる)のは、自分たちの行動であって、
相手(顧客)ではない、

という点だけは、胸に刻んでおくべきだと思います。

投稿者 松尾 順 : 13:43 | コメント (0) | トラックバック

ロバストデザイン

「製品の差異化は難しくなった、すぐに追いつかれてしまう」

いまさら言うまでもないことですね。

しかし、正確には、機能、性能、大きさ、重さといった数値で
把握しやすい部分での差異化は難しくなったということであって、

・デザイン(色、形状、素材の質感など)
・ちょっとした工夫がもたらす使いやすさ(ユーザビリティ)

などの、数値で把握しにくい、
些少と思われがちな部分での差異化はいくらでも可能です。

そして、実はこの些少な部分での差異が、
売れ行きに大きな違いを生み出しているのが現実です。

なぜなら、わかりにくさ、些少さが、競合他社にとっては
ステルス(発見されにくい)的であるために、
簡単に真似をすることができないからです。


ただ、数値で把握しにくい些少な部分であるだけに、
市場投入前の製品開発段階では、どんな差異化が有効なのか、
自分たちでもよくわからない!

「じゃあ、市場に聞いてしまえ!」

というわけで最近増えてきたのが「探索型マーケティング」。

これは、新製品のコンセプトがあったら、きめ細かな詳細設計を
せず、スピード第一、とにもかくにも形(プロトタイプ)に
してしまって、ユーザーに使ってもらうやり方です。

もちろん、流通(卸・小売)のバイヤーにも聞く。
聞ける人には誰にでも感想・意見を求める。

こうして、新製品(のプロトタイプ)は、実際のユーザーや
関係者に揉まれながら、細かい改良を積み重ねられ、
今のユーザーのニーズに最も適合した製品へと成長を遂げる。

これは、ソフトウェアの開発において一般的なものですが、
物理的な商品、あるいは形のないサービスにおいても、
こうした「探索型マーケティング」の発想をもっと強化すべき
ではないかと思います。

ユーザーのニーズは、どんなに徹底したマーケティングリサーチ
をやっても、確実には見えてこない時代です。

だから、初めて上市する製品を「完成品」と思わないほうが
いいわけです。

売れなかったからといって、
発売開始早々にさっさと見切りをつけてしまうのも
ちょっとおかしいんじゃないでしょうか。


さて、「探索型マーケティング」によって、すなわち、
市場に揉まれ、さまざまな改良が施されて競争優位性を持つように
なった製品のことを神戸大学大学院教授、石井淳蔵氏は

「ロバストデザイン」

と呼んでいます。
(PRESIDENT、2006.10.02)

ロバストとは、「頑健な」という意味です。
競合の脅威に対して頑健な製品設計プロセスということでしょう。

このロバストデザインにおいて、
石井先生が指摘する重要なポイントをご紹介します。

従来のロジカルなマーケティングアプローチの視点からは
正反対ともいえる考え方です。


・ターゲットやベネフィット、つまり
 「誰に、どういう価値を提供するか」というコンセプトを
 事前にはそれほど厳密に定義しない。
 (要するに、「あいまい」にしておく)

・マーケティングの目標や計画も、厳格に守るべきものというより、
 関係者が話し合うためのガイドラインかプラットフォームに過ぎない

・どちらかというと、特定のターゲット・ベネフィットに絞るより、
 「競争者に負けない商品」「自社にふさわしい商品」「自分たちが
 納得する物づくり」が目指される

・目的に合わせて仕事を編成するというより、手元の資源をかき集めて
 仕事をやっていくうちに目指すものが見えてくるというアプローチ

・コンセプトや目標をあいまいにしておくことで、市場の思わぬ変化に
 対応できる。むしろ、どこで商品に対する人気の渦が生まれてきても
 対応できるように手を打っておく

・自在に動き、偶然に遭遇する機会を最大化し、それらを柔軟に自らの
 動きの中に取り込む


上記にご紹介したポイントは、
厳密な経営計画の立案と実行、短期的な収支を重視する企業には、
なかなか受け入れがたいことでしょう。

端的に言えば、

「あいまいさ」

と共存し、

「偶然性」

に依存するやり方ですから。


しかし、不確実性の時代には、
企業もまた、不確実性を内在させることで対応するしか
ないんじゃないでしょうか。

投稿者 松尾 順 : 22:51 | コメント (4) | トラックバック

「ぴあ」の蹉跌・・・勝負に勝って、ビジネスに負けてどうするの?

顧客の満足度、また好意的なブランドイメージ形成に
大きな影響を与える接点(コンタクトポイント)として、
最近特に重視されるようになってきたのが、

「コールセンター」(コンタクトセンター、カスタマーセンター)

ですよね。

単に、注文を受けたり、問いあわせや苦情に対応する
「インバウンド」業務だけでなく、顧客に対して積極的に
アプローチして売上にダイレクトに貢献する「アウトバウンド」
業務も含め、インターネットによる自動化が進む中で、
生身の人間同士が対話する貴重な接点です。


製品自体には大差のない今、
コールセンターの対応の良し悪しで、
企業や製品ブランドに対する印象がガラリと変わってしまう。

以前のように、経費を食うコストセンターとして軽く扱っている
ことはできないわけです。


ただ、コールセンターは入れ替わりの激しいオペレーターの
採用・教育が大変で、質を維持するのはなかなかに難しい。

コールセンターを「必要悪」くらいにしか思っていない、
いまだ本質の見えていない経営者もいると聞きます。

このため、オペレーターの志気があがらず、
ずさんな顧客対応が起きることも当然ながらあるわけです。


さすがに、「ぴあ」ほどの優良企業ではそんなことはないだろう
と思ってましたが、そうでもなかったようです。


今回は、私の友人が今、リアルタイムで体験している
コールセンター顧客対応の「ダメダメ事例」をご紹介します。


友人(Aさんとしましょう)は、プラチナチケットを狙って、
エントリーボックスの予約(先行の先行)を電話で行いました。
(自動音声対応)

席は無事ゲット!やったね。

カード番号、認証番号も入力し、最後に「予約番号」を
確認のため入力しなければならなかったのですが、
自動音声がよく聞き取れません。

なんど聞いても予約番号がよく聞こえない。
このため、確認番号を何度か入れ間違ったところ、いきなり

「申し訳ないですが予約をお引き受けできません」

というアナウンスとともに電話が切れてしまいました。

あわててかけ直したものの、もはや席は確保できず・・・


Aさんは、当然ながら、この件でコールセンターの
オペレーターに電話をかけて対処をお願いしたのですが、

予約は、もはやできません、申し訳ない、すいません

と杓子定規な回答を繰り返すだけ。
上司にも取り次ぎません。

オペレーターの対応に「誠意」が感じられず、
これだけでも「ぴあ」のコールセンターには大きな問題が
あるのでは思えるのですが、その後のやりとりで、
極めつけの「悪回答」をAさんに寄越しています。

・今まで予約番号案内音(低音の女性の発声)が
 聞きにくいという報告受けたことは「一切」ない。
・(Aさんの)電話機の問題ではないか?


この回答のなにが問題かというと、
オペレーターが顧客に対して、
正面切って勝ち負けの勝負に出てきているという点です。

つまり、

「どちらが正しいか、間違ってるか」

をはっきりさせようじゃねぇか、と開き直っているわけです。

これは、真に悪質なクレーマーであった場合にのみ
許される最後の顧客対応でしょう。

なぜなら、結果がどう転んでも顧客の感情は害されて
しまっていますから、今後の取引継続は望めないからです。


しかし、Aさんは、実は10年来のぴあ会員です。
ぴあのロイヤルカスタマーです。これは会員履歴をみれば
すぐにわかること。

また、今回のトラブルは、たかだかチケット数枚の話。
悪質でもなんでもありません。


現在、Aさんとぴあのやりとりは続行中ですが、
結果次第では、ぴあ会員の退会もありえるでしょう。

わずか数千~万円程度のトラブルで、Aさんの今後の生涯売上
をふいにしようとしているわけです。


話が飛ぶようですが、
小売業では、理由のいかんに関わらず返品を受け付ける
という対応が一般的になってきてますよね。

「Customer is always right」

お客様は常に正しいのだ、という考え方をベースにして
いるわけです。

仮に顧客側の過失が返品理由であったとしても、
快く返品を受け付けることで、好意的なブランドイメージ
形成と、長期的にはロイヤル顧客の育成につながるからです。


ひるがえって「ぴあ」の対応は、

ぴあさん、
勝負に勝つのはいいけど、ビジネスに負けてどうするの?

と聞きたくなるようなものですよね。


さて、結末はどうなることやら。

投稿者 松尾 順 : 13:19 | コメント (2) | トラックバック

AFTERのイメージ

その商品(サービス)を購入して実際使ってみたら、
どんな感じなのか、また、どんないいこと(メリット)があるのか?

このことは、特に初めての商品(サービス)の場合、
未経験だけに、あまりイメージができませんよね。

だから、その商品(サービス)に対する確信が持てなくて
購入に踏み切ることができないことあります。


実は、お店でポンと商品が展示してあるだけだと、
使用後のイメージが伝えにくい。

通信販売のカタログなら、現物は見せられないけれど、
使用中のイメージ(例えば、鍋なら、おいしそうなシチューが
湯気を立てている写真)を示したり、ユーザーの声を伝えること
で、実際に使用した場合の価値(使用価値)を伝えやすい。

だから、通信販売でモノが売れる。

というのが、以前ご紹介した通販生活の斉藤駿氏の説です。

参考>「ネットだから売れる」


では、通信販売以外の業態ではどんな工夫をして「使用価値」を
伝えようとしているのでしょうか。


最近の事例としては、シャープのエアコンの販促ツールとして
制作された「訪販バッグ」がありますね。(販促会議、2006.10)

これは、家電専門店の販売員が、
家庭を訪問してエアコンを売るためのツールです。

エアコンのようなかさばるものは、
とても持ち運びできませんので店頭のように現物は見せられない。

ですから、これまでは、無機質な写真とスペックが並んだ
あまり面白みのないパンフレットを持参するしかなかったわけです。

しかし、シャープでは、エアコンの外枠だけの見本を制作しました。
いわばハリボテのエアコンですが、これならショルダーバッグで
持ち運べる軽さになります。


なお、販売対象商品は、奥行き30cmの大きめのエアコン。
このところ流行の薄型で目立たないことを売りにする商品とは
逆張りの形状です。

そこで、凝った木目調のデザインを施し、
インテリア的に積極的に見せることができるスタイルに仕上げて
います。

こんな特徴を持つエアコンですから、
現品を目の前で見せることで、質感やデザインの良さを実感して
もらえますし、なによりも、訪問先の家庭の家具・調度品に
合うかどうかを判断することができます。

さらに、外枠が持っていけない販売員のために開発されたツール
も面白いです。(中身の入っていないエアコンとはいえ、それなり
の重さがあるので、年配の家電店オーナーにはつらいようです)


「ヴァーチャル設置写真シート&設置イメージシート用製品シール」

と名称は仰々しいですが、実にシンプルなツールです。

下敷き程度の大きさの透明シートにエアコンの写真を貼り、
手に持って部屋の隅に合わせてすかして見ることで、
設置された時の様子が擬似的にわかるというもの。


ローテクだけれど、

・どの部屋にはどの柄が合うのか
・どこに設置したら一番見映えがいいかなど

がイメージできるので予想以上の効果を発揮しています。

なお、売り上げは前年比1.3倍だそうです。


サービス業では、有名美容室の「田谷」の‘擬似パーマ’が
面白いですね。

パーマ後の仕上がりが不安がある顧客に対して、
ムースを使ってパーマ後のヘアスタイルの変化を擬似的に
見せることで、納得してオーダーする客が増え、
パーマをする顧客の割合が、18%から25%に上昇しています。


これらの事例は、要するに

BEFORE/AFTERのうち、「AFTERのイメージ」を
効果的に伝えるために、商品のデモをどううまく行うか

ということなんですが、必ずしもネットに頼らなくても、
ローテクでいろいろと工夫の余地があるということを
教えてくれますね。

投稿者 松尾 順 : 08:29 | コメント (0) | トラックバック

「でもでも」モデルと「だけだけ」モデル

「でもでも」モデルの代表例は、
世界一のファーストフードチェーン、「マクドナルド」。

「だけだけ」モデルの代表例は、
日本一の旅館、和倉温泉の「加賀屋」。

この2つのモデルは、サービス業における
「標準化」と「個性化」を基礎に置く考え方です。


マクドナルドは、単位化(分割作業)と作業の標準化
(マニュアル化)を徹底的に推し進め、
グローバルな供給体制を構築することで、

「いつでも、どこでも、誰でも」

同じ商品とサービスが受けられるという
サービスのコモディティ(ありふれた商品)化を
成し遂げていますよね。

だから「でもでも」モデル!


一方、プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」
26年間連続、日本一に輝く「加賀屋」は、
個々の顧客の特性、嗜好、ニーズに極力個別対応します。

例えば、ゆかたは、
他の旅館のようにあらかじめ部屋に置いてありません。

客を出迎えた客室係が、部屋に案内しながら
適切に客の身長、身幅を読み取り、身長は5センチ刻み、
横幅は4タイプから最も目の前の宿泊客に合うサイズを
後で持っていきます。

また、料理も、名古屋から来た客のために、
特別に赤だしのお味噌汁を作るそうです。

この対応は、グループの中の1人であったとしても同じです。
1人だけのために、他の客とは別に柔らかめに炊いた
ご飯を用意することもあります。

加賀屋にも一応、接客マニュアルはあるものの、
旅館で働く人たちが大切にしているのは、

「お一人、お一人、心も顔も異なるお客様に向き合えるのは、
 この方のためにと尽くす自分の心しかありません」

という思い。


「あなただけ」のサービスを提供するために、

「できません」「ありません」

とは決して言わないのが加賀屋。

だから、「だけだけモデル」なんです。


さて、「でもでも」モデルと「だけだけ」モデル、
どちらが優れているといった議論のものではありません。

どちらも、固有のベネフィットを提供しています。

「でもでも」モデルが提供するのは、「安心感」。

世界旅行で見知らぬ土地に行ったけど、
現地の食事が自分に合うかどうかわからない時、
勝手知ったるマクドナルドに入れば、とりあえず安心ですよね。
(旅の醍醐味を一部失ってますけど・・・)


一方、「だけだけ」モデルは、
要するに「王様・王女様」扱いをしてくれるということですから、

「自己重要感」(自分は唯一のかけがえのない存在という意識)

を高めてくれます。

マズローの欲求五段階説的に言えば、
「でもでも」モデルは、生存や安全の欲求を、
「だけだけ」モデルは、所属、愛、評価、承認といった欲求を
満たしてくれるのだと言えそうです。


第三次産業として、農林水産業、工業に遅れて発展してきた
サービス産業は、「標準化」による生産性の向上が極めて重要な
製造業の影響を受けているためか、これまでどちらかと言えば、
「でもでも」モデルに偏りすぎていたように思います。

しかし、時代は言うまでもなく「だけだけ」モデルを求めています。
個別対応を重視した手厚い人的サービスが、これからさらに
増えていくように思います。


ただし、「だけだけ」モデルが成功するためには、
優れた人材の採用、育成、そしてリーダーによる適切な動機づけが
必須。

これが簡単ではないことは、昨日書いた青山のレストランの話でも
うかがえます。


加賀屋の場合、経営者の優れた人間性のなせる技か、

「加賀屋にはたくさんの客室があり、
 大勢の客室係が働いていますが、私たちは、受け持つ客室を
 加賀屋から一晩だけ借り受けるテナントだと考えています。」

「私たちは、一人ひとりが受け持つ客室の経営者なんです。
 その意識さえあれば、働かされているといるといった
 ネガティブな気持ちにはならないし、毎月のお給料も加賀屋
 の社長ではなく、お客さまから頂戴しているという大切な
 ポイントに気づくはずです」

とまで、客室係の人が言い切る意識が浸透しています。
だからこそ、日本一を長年続けることができるんでしょう。


*「でもでも」モデル、「だけだけ」モデルは、
 妹尾堅一郎先生(東京大学先端科学技術研究センター特任教授)
 の提唱(一橋ビジネスレビュー2006 AUG、特集論文
 「サービスマネジメントに関する5つのイシューより」

*加賀屋についてのエピソード、引用は、
 「加賀屋の流儀」(細井勝著、PHP出版)より。

投稿者 松尾 順 : 20:12 | コメント (0) | トラックバック

千葉・南房総にある旅館「紋屋」。
この宿の女将さんが「続・新米女将のひとり言/明日へのあゆみ」
というメルマガを発行されています。

私は発刊当時から読んでますが、もう発行7年目です。

このメルマガでは、旅館の経営がどんなものなのか、
けっこう赤裸々に綴られていて面白いですよ。


さて、先日のメルマガでは、女将さんの誕生日お祝いのため
ご主人と都内の某レストランに行った感想が書かれていました。

そのレストランの店名は書かれていませんでしたが、
サービスがすばらしいことで有名で、麻布十番にもお店があり、
イニシャルが刺繍されたナプキンが頼めて、
旅館向けのコンサルティングをやっている店ということですので、

「愛と感動のレストラン」

と称される青山(表参道)の人気店に違いありません。


それで、女将の感想は、端的には

「残念!」

ということのようです。

行く前の期待値が高すぎたこと、またご本人も飲食サービス
のプロですから、見る目が厳しかったんだろうと思います。

例えば、ご主人が頼まれた1万円のコースは、
各料理のポーションが小さく付け合せが寂しいもの。
値段の割りには全く量が足りない。味付けも変化に
乏しかったそうです。

また、追加有料でオーダーしたデザートプレートは、
ケーキ類はごくわずか。お世辞にもおいしいものではなかったし、
果物の鮮度もいまいち。


私が気になったのは、人のサービスについてのコメントでした。

「(誕生日)おめでとう」と言ってくれたスタッフの人たちは、
慣れすぎているのか、いまいち心がこもっておらず、にこやかさも
足りなかったこと、また、料理の説明についても、
最初のオーダーを取った女性を除いては、
早口で説明がわかりにくかったことなどを指摘していました。

このお店では、スタッフはみなレシーバーをつけて情報共有を
していて、帰る時にはご本人の傘がすかさず出てくるなど、
さすがの対応ではあるのですが、サービス業に従事している方から
見れば、

「システム」はよく出来ている

に止まると感じたそうです。


ちなみに、青山のこのレストラン、私も2度ほど利用したことが
あるのですが、他のレストランとは比較できないサービスに
大いに満足してきました。

ここ1年ほど足を運んでいないのですが、
最近はますます名声も上がり、超繁盛店になりすぎて、
現場に多少の「おごり」や「惰性」が生じているのかも
しれませんね。


現場スタッフの皆さんもがんばっているのでしょうけれど、
人的なサービスは一朝一夕で劇的に向上することはできませんし、
ちょっとしたやる気の変化で、サービス・クオリティも大きく
変わってしまうものです。


女将も締めくくりに書いていますが、

「本当にサービス業は難しい」

ものなんでしょう。

投稿者 松尾 順 : 12:58 | コメント (0) | トラックバック

絞り込む勇気

ホテルやレストランなど、店舗を構えてサービスを提供する
ビジネスの場合、来店客自体がサービスの世界観というか、
イメージを左右する要因になりますよね。

落ち着いた雰囲気の高級レストラン・バーなどで子供の来店を
断るのは、決して高飛車な態度を取りたいわけではなく、
子供がはしゃいだりするとその雰囲気が壊れしまうからです。
(結果的に来店客が減って経営が苦しくなります)

ですから、どんなお客さんに来て欲しいのか、
客層を絞込み、かつ、「ターゲットが誰かを」明確に外部に
伝えることが重要になってきます。


「ターゲットを絞り込み、外部に明確化する」

このビジネスの原理原則が、実際有効であることがわかる実例が、
日経MJの小阪裕司さんの連載コラム「招客招福」(20006/09/13)
に紹介されてました。(このコラムは、いつも実例に基づいた内容
なのですごく参考になります)


さて、ある美容院の話です。
勉強熱心な店主は、集客チラシに工夫をこらし、
客数を増やすことに成功していました。

ところが、やみくもに客を集めた結果、
年齢もタイプもあまりに多様な客が訪れるようになったため、
それまで作り上げてきたお店の雰囲気や顧客とスタッフの関係
がぎくしゃくするようになってしまったそうです。

そこで、店主は、ただお客を増やせば良いというものではない、

・どういうお客と付き合いたいのか
・どういうお客のお役に立ちたいのか

をしっかり定めるべきだということに気づいたわけです。


そして、彼が決めたのは、

・安売りは一切やめる
・主婦とお付き合いし、主婦のお役に立ちたい

ということでした。


さらに、店名を

「主婦の美容室○○」

に変えました。

これは、「誰に来て欲しいのか」を対外的に明確に伝えている
ということがポイントですよね。


小阪さんがコラムで書いてらっしゃいますが、
こうしてターゲットを絞り込み、対外的に明確化するのは
とても勇気のいることです。

なぜなら、この美容室で言えば、主婦以外は来ないでくださいと
暗示しているわけです。つまり、それだけ対象とするマーケット
規模を自ら小さしていることになるからです。


しかし、絞り込んだターゲットが、ビジネスとして成立する
だけの十分な大きさがあれば、むしろ「類は友を呼ぶ」効果が
発生します。

おそらく、主婦主体となった店には、主婦にとって心地よい
統一感のある雰囲気が形成されていると思います。

最近はやりの言葉を使えば、

「主婦のブランド経験の最適化」

を実現したとでも言えるでしょうか。

実際、店名変更後、同店での売上げは倍増したそうです。
値下げどころか、値上げしたにも関わらずです。


マーケティングの出発点は、「ターゲットセグメントの設定」
であることは、頭ではわかっていも実はなかなかできないこと
ですよね。

ついつい、「お客になってくれるのなら誰でもOK」
と思っちゃうものです。

でも、それは事業継続の観点からは間違った考え方であること
を再認識しないといかんでしょう。


余談ですが、最近仕事の引き合いをいただいた、
ある人材紹介会社は、

「30代のビジネスパーソンのキャリアを支援する」

とターゲットをきっちり絞り込んでいるそうです。


また、お取引のあるWeb制作会社では、

「出版社のWeb制作・運営支援で日本一になる」

という目標を掲げているところや、

「ファッションブランドのECサイト制作」

に全経営資源を投下しているところがあります。


私としても、こうした会社とこそ、
ぜひともお付き合いさせていただきたいと思っています。
(私にとってのターゲットセグメントの明確化です)

投稿者 松尾 順 : 08:30 | コメント (3) | トラックバック

ヘビーユーザーに聴け!

洋菓子メーカーのモンテールが、昨年10月に自前で立ち上げた
SNS、「スイーツ探検隊」。

現在の会員はまだ1500人程度ですが、甘いもの好きが集まり
熱いコミュニケーションを交わしているようです。
(日経産業新聞、2006/09/12)

実際、毎日アクセスするアクティブユーザー比率は25%だそうで、
企業版SNSの平均的な比率(13-16%)と比較すると、
はるかに活発であることがわかりますね。


さて、モンテールが、自前のSNSを立ち上げた最大理由は、
消費者の変化し続けるニーズをよりスピーディに頻繁に
拾い上げること。

同社は、スーパー、コンビニの店頭で売る商品を
開発していますが、売れ筋のはやりすたりが激しく、
毎月何品もの新製品を投入しなければなりません。

このため、いちいち

「新製品開発のためのアンケート」

を時間かけてやってられないそうです。

その点、SNSなら、新製品の反応
(買ってみたけど、なかなかおいしかった、まずかった、とか)
が会員の日記を読めばすぐにわかります。

スイーツ探検隊には同社社員も積極的に参加・発言しています。
例えば開発の裏話を書いたり、掲示板に

「京都のおすすめスイーツは?」

といったお題を立てて、
会員とのざっくばらんな交流を行っています。

これは、モンテールからすれば、オンラインの
グループインタビューを気軽に実施しているようなものですね。


ただ、このスイーツ探検隊のケースにおいて重要なポイントの
ひとつは、消費者ニーズの吸い上げの対象を

「甘いもの好きで、スーパーやコンビニで購入する機会も
 多い人」(私もそうですが・・・(^_^)!)

に絞っていることでしょう。

つまり、ヘビーユーザーの声だけを
積極的に集めようとしているわけです。


以前ご紹介した本、

「イノベーションの達人」

では、

一般的な消費者を集めた従来のグループインタビューでは、
有益な情報は得られないと言い切っており、
むしろ開発している製品やサービスに「異様に熱中している人」
を集めて意見を聞く、

「非フォーカスグループインタビュー」

を提案しています。

なぜなら、「非フォーカスグループ」は、
革新的なデザインのテーマやコンセプトに関するひらめきを
与えてくれるからであり、また、どんなものが人を心から
興奮させ、かりたてるかを表情や身振りで具体的に示して
くれるからです。


「スイーツ探検隊」は、まさに非フォーカスグループの
オンライン版と言えますよね。もちろん、SNS上の文字情報
だけでは表情は身振りまでは伝わりませんが、言葉だけでも、
彼らの興奮度合いを読むことはできます。


また、P&Gの元バイスプレジデント、和田浩子氏によれば、
日本の消費者は、他国の消費者と比較して、

商品に対する要望や問題点を論理的、
かつ的確に言葉にする能力

が高いそうです。

ですから、ヘビーユーザーの的確な意見を集めるツールとして
の企業版SNSは、特に日本人消費者が対象の場合、
有効に機能しそうですよね。

投稿者 松尾 順 : 09:19 | コメント (2) | トラックバック

女の人は鼻毛をどうやって処理しているのか?

「キミは他人に鼻毛が出てますよと言えるか」
(北尾トロ著、幻冬舎)

という奇妙なタイトルの本があります。

私の事務所の積読・未読本の山の中にも1冊あります。
今となってはなぜこの本を買ったのかよく覚えていません。(笑)


ま、確かに、ミーティングなどで目の前に座った人の鼻穴から
鼻毛がのぞいていたら、どうにも気になってしまうものですが、
面と向かって「出てますよ」とは言えないものです。

そんなわけで、私なんかも鼻毛切り用小さいハサミを
使って時々「処理」してるんですが・・・


「そういえば、女性だって鼻毛伸びるよなあ、
 どうやって処理してるんだろう?やっぱり小さいハサミ?」

男性でこんなギモンを持った人もいるかもしれません。

男でも、あそことかとかあそことかあそこの毛は、
ナショナルの「ソイエ」のような、バリカンに似た脱毛器を
使うことは知ってますが、まさかあれを鼻につっこんだり
してないでしょう。(ゴリラくらい鼻穴が大きくないと
物理的にムリ)

いわば、鼻毛処理は、
隠された女性行動のひとつであったわけです。(オオゲサ)

しかし、データ捕捉が容易なネット販売によってその秘密が
明らかになろうとしていますね。


アマゾンのヒット商品ランキングで、
05年度の「ホーム&キッチンストア」部門の年間第一位は
なんと、「鼻毛カッター」だそうです。
今年、06年度の上半期でも同部門約4万点の中で一位に輝いて
います。(Mainichi Interactive Mail、2006/09/12)

鼻毛カッターの05年度の出荷台数は、電気かみそりの780万台に
対して50万台程度だということで、全体としてみればそれほど
需要が大きいわけではない。どうやら、オンラインでのみ、
やたらと売れているのです。

そこで、このヒットの原因を探ってわかったのは、
「鼻毛カッター」のオンライン購入者には「女性」が多いらしい
ということ。

その理由は、家電店の店頭で、女性が「鼻毛カッター」を
買うのは恥ずかしいから。

鼻毛カッターは、元々男性向けのイメージがありますが、
オンラインでは女性も気兼ねなく買えるので、
その分販売量が押し上げられているということらしいです。


アマゾンの同部門担当者によれば、
家電店では、たいてい隅の方にあって見つけにくく、
かといって店員に聞くのもためらわれるけれど、
アマゾンのランキングで「鼻毛カッター」を見つけた女性は、

「こんなのがあるんだ!」

とこうした商品の存在を知り、購入者の感想コメントを読んで
買ってしまうのだろうと分析しています。

実際、コメントの文面から推測すると、男女比率は6:4くらい
だと考えられるそうです。


ネットのおかげで、女性のニーズが顕在化しただけでなく、
ネット特有の現象ですが、

「売れるからますます売れる」

という循環に「鼻毛カッター」も入っているようですね。


ところで、興味深いのは商品自体のコンセプトの変化です。

第1号の鼻毛カッターは90年代に日立から発売されました。
当初は紺色で四角いデザイン、あくまでも男性向けでした。
(そういえば、当時、私も何かでもらって使ってました・・・)

しかし、02年、「女性も使うのでは」という家電量販店の
バイヤーの提案に基づき、「男女兼用」をイメージした
現在のシルバーと水色のデザインに変更されています。

そして、日立では、さらに「女性向け」を開発しようとした
そうです。

ところが、今度はバイヤーに止められた。

「女性用は『自分が使う』とバレるから、店では売れない」

と指摘されたのだそうです。

このバイヤーは、女性心理をよく理解していたんですね。


この話で思い出したのが、同じくちょっと恥ずかしい系商品の代表、
毛生え薬のベストセラー「リアップ」の女性版(リアップレディ)
の売れ行き不振です。

「日本発、女性用発毛剤誕生」

と銘打って発売された「リアップ・レディ」ですが、
期待に反して売上げの伸びがもうひとつなんですよね。


女性向けの発毛剤のニーズは確かに存在しています。
しかし、やはり店頭では買いにくいですよね・・・
(そうですよね、女性の皆さん?仮に自分がそんな悩みを
 抱えていたとしたら)

「リアップレディ」は、対象者である女性の購買心理を十分に
読みきれていなかったと言えるのかもしれません。

鼻毛カッターの事例を参考にすれば、
通販に力を入れれば、もっともっと売れるはずです。
(医薬品ですからちょっと壁があるかな)

投稿者 松尾 順 : 10:10 | コメント (0) | トラックバック

新規顧客獲得は、こそこそやってくださいませ

つい昨日聞いたばかりの話です。

京都の老舗の某和菓子屋が、
ある時「ぴあ」に掲載されたそうです。

とてもおいしい和菓子が買えるとか、
そんな紹介が載ったんだと思います。
(店が取材を受けたわけではありません)


ところが、「ぴあ」をみた客が早速行ってみたら、
なぜかお店は閉まっていました。

いつ行っても閉まっていました。
結局、この店が再び店を開けたのは3ヶ月後。


なぜか?

既存顧客を守るためでした。

ぴあをみた一見の客が殺到して商品が売切れてしまったら、
常連さんが買えなくなる。

だから、ほとぼりがさめて一見さんがこなくなるまで
あえて店を閉めたのだそうです。


これは、事業を継続するもの(ゴーイング・コンサーン)と
考える視点から見れば、大変すばらしい判断ですよね。


客が押し寄せる時期に店を開けたら一時的に大繁盛するでしょう。
でも、手作り中心の和菓子の生産量には限界があります。
売上げの増加度はたいしたことない。

しかも、一見さんは文字通り一見さん。
リピート顧客になる確率は限りなく低いでしょう。

むしろ、これまで長年買い続けてきたロイヤル顧客が、
一時的なブームのために離れてしまったら、
ブームが去った後が大変です。

大きく売上げが落ち込こむこと必至。
ブランド(のれん)もガタガタになってしまっていたかも
知れません。

この和菓子屋は、既存顧客を守ることによって、
自店の伝統あるのれんを守ったのだと言えるでしょうね。


ところで、同様に昨日、
月刊誌「宣伝会議」のメルマガ登録者である私に、

「新規定期購読キャンペーン」

の告知メールが届きました。


いまなら、定期購読申し込み先着30名に、
広告コピーのコンテスト「宣伝会議賞」の応募作品を収録した
最新本を無料進呈とあります。


はて、長年定期購読している私はどうなるんでしょう?

もちろん、「新規の」定期購読者にはもはやなれません。
ですから、残念ながらこの本はもらう資格がないわけです。


ただ、宣伝会議賞の本は過去4冊出版されており、
これまですべてお金を出して買っていただけに、
なんだか、今回はとても損した気分です。

最新本を買う意欲が減退したように思います・・・


基本的に、どんなビジネスも、
既存顧客を維持するだけでなく、新規顧客の獲得も
継続的にしなければやっていけませんよね。
(先に紹介した和菓子屋は例外的なケースでしょう)


しかし、既存顧客を不愉快な思いをさせないような配慮は
必要です。


卑近な喩えを許してもらえるなら、

「二股かけたいのなら、こっそりやって頂戴!」

といったところです。(笑)


先の告知メールで言えば、メルマガ購読者の中から、
定期購読者を除外した上でメール配信すべきでした。


新規顧客も欲しいけれど、既存顧客も大切にする、
そんな気持ちがあれば、その程度の作業をやるのは
常識です。

投稿者 松尾 順 : 23:27 | コメント (0) | トラックバック

「分析力」より「解釈力」

先週は、あるサービスについての「ユーザーアンケート調査」の
報告書づくりにかなりの時間を費やしていました。

調査内容の詳細を公開することはできませんので、
抽象的な書き方になって恐縮ですが、
アンケート調査で聞けることは、現状や行動など、
現時点での「結果」についてが多くを占めます。

一方、「なぜそのような行動を取ったのか?」という、
理由や原因についてについてもある程度聞きますが、
アンケートでは聞けることに限界があります。
(だからこそ、対面でのグループインタビューや
 個別インタビューを併用する意義があるんですが・・・)


つまり、アンケート調査の場合、

「結果についてのデータ」

は豊富に取れるが、

「原因についてのデータ」

は限られています。


ところが、調査報告書に求められるのは、
「結果がどうだった」とういうことだけでなく、

「原因がこうだから結果がこうなった」

という、原因と結果の結びつけなんですね。

ただ、前述したように原因についてのデータは限られていますから、
データをオモテ・ウラ・タテ・ヨコ・ナナメ、
あらゆる側面から眺め、設問同士の関係性をあれやこれや
見ながら、因果関係を発見しなければなりません。

もちろん、そうして発見した因果関係は、多くが「仮説」
(たぶんそうだろうという考え)です。

したがって、今後の調査や、具体的なマーケティング施策の実行に
よって、本当にそんな因果関係が存在しているのかを「検証」
する必要があります。


さて、こうした調査結果からの因果関係の発見は、
「分析力」というよりは、「解釈力」と呼べるものです。
(ビジネス一般でいえば、「洞察力」とほぼ同じ意味です。)

マーケティングリサーチの世界では、意外にも
「解釈力」の重要性があまり語られませんが、
調査結果が本当の意味で、実務に役立つためには
この「解釈力」による因果関係の発見が欠かせないと
私は思っています。


では、解釈力はどうやったら身につくのでしょうか?

基本は、調査テーマに対する深い知識と豊富な業務経験でしょう。

データを読みなれるという意味では、
リサーチ経験があったほうがいいのですが、
それはリサーチのテクニカルな面というよりは、
むしろ、データの組み合わせから大局を俯瞰できたり、
人間心理の機微の理解に基づく、「直感」や「洞察」を
働かせることのできる能力が重要です。


この「解釈力」の向上は、私も日々精進しているところですが、
本当に難しいですね。先週のレポート作成でも、
時につらくて床の上をゴロゴロ転げ回りたい気持ちになりながら、
必至の形相でデータに立ち向かっていました。


ただ、この「解釈力」こそが、
コンピュータがそうそう追いつけない人間固有の能力だと
思います。

ハードルは高いけれども、磨くだけの価値があります。

投稿者 松尾 順 : 10:52 | コメント (0) | トラックバック

パズル制作者が失業する日

1997年、米IBMのコンピューター「ディープブルー」が、
世界チェスチャンピオンのガスパロフ氏をチェス対決で破った時、
私たちは、大きな衝撃を受けましたよね。

チェスのような高度なゲームをする能力は、
人間の知能だからこそ持ちえるものだと考えていたのに、
コンピューターがそれを上回ってしまったことに、
一種の恐怖を感じたのかも知れません。


さて、チェスほどの話題にはなってませんが、
イタリアのシエナ大学が開発した「ウェブクロウ(Web Crow)」
は、クロスワードパズルを解く能力で人間を上回る能力を
証明したそうです。

「ウェブクロウ」は、いわゆる「人工知能」
(AI:Artifitial Intelligence)の技術を使って開発された
ソフトウェアです。

日経産業新聞(2006/08/07)のコラムによれば、
辞書や百科事典をデータベースに組み込むことで、
自然言語の体系やさまざまな知識を学習し、

「右の反対は?」
「九月を陰暦でなんと呼ぶ?」

といった程度の問題は答えられるようになってきたそうです。


そして、「ウェブクロウ」がIBMの「ディープブルー」と
大きく違うのは、インターネットの検索エンジンと接続している
点です。

ウェブクロウは、クロスワードの設問の中からキーワードを
抜き出しネットで検索、関連語を抽出して試行錯誤で正解を
発見していきます。

ウエブクロウが接続しているのは、おそらくグーグルでしょうね。

グーグルの高度な検索技術とインターネットという巨大な情報源の
おかげで、ついにパズルの分野でもコンピュータが人間を上回る
性能を持ち始めたわけです。


日々新しい情報が更新されるインターネットだと、
過去の知識だけでなく、最新の時事問題にだって簡単に対応
できますし、日本語に対応させることだって問題なし。

しかも、ウェブクロウの技術を逆に使うと、
気の利いたパズルが簡単に制作できるようになります。

そうすると、近い将来、パズル制作者が失業する日が
間違いなく来るということです・・・


考えてみれば、クロスワードパズルを解くことは、
主として言語情報の記憶に頼っています。

多少連想を働かせる力が必要ではありますが、
頭の中に蓄積した過去の情報、知識の再生力に依存するところが
大きいですよね。

しかし、この能力は、そもそもコンピュータが得意な領域であり、
人間を凌駕するマシンが出てくるのは時間の問題だったわけです。

ただ、それはインターネットという巨大な外部脳の成長が
不可欠だったのでしょうけど。


あまり愉快な話ではありませんが、今後も
人間にしかできないと考えられていたことが次々とコンピュータで
代替されていくことは、こうした事象を見ていればはっきりと
「予見」できますよね。

こんな時代、
あなたがいい仕事をするために伸ばすべきスキルは何なのか、
現実を直視して考える必要があると思いませんか。


英文ですが、以下は「ウェブクロウ」の記事です。

●COMPUTER BEATS HUMANS AT CROSSWORD PUZZLES

投稿者 松尾 順 : 10:30 | コメント (0) | トラックバック

ウィスパーに、羽根の生えた日

きちんとスーツを着た成人男性が、
ダイエーのような量販店やスーパー、ドラッグストアの
生理用品売り場をうろうろする。

私は若い頃、こんな毎日を送る時期がありました。


「なるほど、あんたは昔は(も)変態だったんだな」

と思わないでくださいね。(笑)

市場調査の調査員として、店頭在庫を調べていたんです。

もちろん、普通は女性しか立ち入らない売り場に入るのは、
とても居心地が悪いものでしたし、
むさくるしい男がうろうろしているのは、買物に来た女性に
とってもいやなものだったでしょう。

おかげで、生理用品の名称や売れ行きには大変詳しくなりました。
もちろん、自分で使用したことはありませんが、
こうして生理用品の話も堂々とできる免疫がついてしまいました。


さて、当時、生理用品市場で高いシェアを誇っていたのがP&Gの

「ウィスパー」

でした。「ドライメッシュシート」だとか、「羽根つき」だとか、
革新的な技術はみなウィスパーが先んじたものだそうです。


「ウィスパー」の日本導入は1986年です。
ウィスパーの初代ブランドマネージャーだった和田浩子氏の本、

「すべては消費者のために P&Gのマーケティングで学んだこと」
(和田浩子著、トランスワールドジャパン)

では、同ブランド立ち上げの経緯が詳しく紹介されています。

この本は、ブランドづくりの赤裸々な現場の様子がよくわかって
とても面白いですよ。


和田氏によれば、
当初設定されたウィスパーのポジショニングは、

「ズレない」

ことでした。

競合他社は、「モレない」ことを謳っていたので、
異なるポジショニングで勝負する必要があったのです。

ところが、テスト結果はさんざんでした。
消費者の購買意欲を喚起できなかったのです。

つまり、このポジショニングは誤りだったわけです。


そこで、ウィスパーのグローバルなポジショニングである、

・クリーナー(より優れた清潔感)
・ドライヤー(より優れたドライ感)
・フィーリング・オブ・プロテクション(安心感)

を見直しました。
日本導入に当たっては、このグローバルポジショニングを
避けていたからです。

また、消費者ニーズを調べると、生理用ナプキンに一番
求められているものは「モレない」ことでした。
一方「ドライ感」は10位程度。特別強いニーズではありません。

しかし、消費者のウィスパーに対する評価を確認し直すと、
「ドライ感」はほかの項目よりも断トツの評価を得ていたのです。

つまり、データは、最初からウィスパーの「ドライ感」に
驚いたという消費者の感想を示していたのに、
消費者のニーズとしてはそれほど重要ではないと判断されていた
ので、ポジショニングを決定する際に見落としていたのです。


こうしたことから、和田氏は、

「ドライ感」に対して消費者に潜在的なニーズがあっても、
これまで問題点を解決した製品を見たことがなかったために、
最初からあきらめていた。だから、
消費者ニーズとして上位に上がってこなかった。

という知見を得ました。

そして、新しく

「ドライでクリーンなプロテクション」

というポジショニングでマーケティングを展開し、
成功を収めたそうです。


以前から何度か書いていますが、このケースもまた、
消費者調査結果から有効な知見を得ることの難しさを
教えてくれる開発秘話ですよね。


なお、和田氏はウィスパーに限らず、
ブランドを育成するためには、担当のチームは男女のバランスが
取れていて、外国人もいた方がベストと考えています。

女性のことを理解しにくい男性や、日本の文化を把握していない
外国人がチームに加わることで、目線が変わり、潜在的にある
需要や、突拍子もないアイディアが生まれるからです。

なるほど。


「ズレない」「モレない」

といったことは私にはさっぱりわかりませんが、
そんな男性でも別の視点から女性用品を考えることができる
という点で役に立つんですね!

投稿者 松尾 順 : 09:26 | コメント (3) | トラックバック

外部の環境変化を直視し、内部変化を起こさないとどうなるか

先日、米国タワーレコードの2度目の倒産が報じられましたね。

リアルなレコード・CD専門店店の破綻を聞くと、
やっぱりインターネットのオンライン販売や不正コピーのせいかな
と反射的に思ってしまいましたが、そうではないようです。


米国の場合、レコード・CDの販売価格は日本と違って小売店が
自由に設定できます。このため、ウォルマートや、ターゲット、
ベストバイといった大手量販店がディスカウント価格で販売
しています。

例えば、女性歌手、パリス・ヒルトンのCDは、タワーレコード
では13ドル99セント、ウォルマートでは9ドル72セント。
ピンクパンサーのDVDは、タワーレコード28ドル99セント、
ウォルマート13ドル72セント。
(日経ビジネス、2006年9月4日号)

勝負になりませんね・・・


日経ビジネスの記事では、1989年以降の「レコード・CD専門店」、
ウォルマートのような「その他の店舗」、および
「インターネット」の市場シェアのグラフが掲載されています。

これをみると、90年台に入って、レコード・CD専門店のシェアは
まさに坂道を転げ落ちるように急落してます。

1989年時点では、「レコード・CD専門店」の市場シェアは
実に71.7%。ところが、2004年には32.5%と半分以下になり、
一方、「その他の店舗」のシェアは2004年には53.8%と半分を
占めるまでに伸長しています。

ちなみに、「インターネット販売」のシェアは、
2004年時点でも、まだ10%に達していません。

要するに、タワーレコードは、インターネット以前に、
ウォルマートのような新たな販売チャネルに対して
価格競争力の面で負けてしまったということです。


しかし、私がよくわからないのは、90年代半ばには既に、
タワーレコードが劣勢な立場にあることがわかっていたはずなのに
なんら自らの経営を革新しようとしなかったことです。

その代わり、憧れの米国文化の象徴ともいえるタワーレコード
ブランドをひっさげて海外へ積極的に展開する道を選びました。

結局、海外進出は失敗に終わりますが、
足下の米国の弱さをそのまま放置していたため、
今回再び破産するしかなかったというわけです。


タワーレコードのケースは、

外部に大きな変化が生じているにも関わらず、それを直視せず、
その外部変化に適応するための内部変化を起こさなかったら
どうなるか

ということを如実に教えてくれますね。


でも、タワーレコードと同じ轍を踏んでいる企業って多いなあ。
経営が迷走しているダイエーもそうでしょう。

そして、おそらく個人レベルでも。
外部の変化に無頓着な人って結構多いんですよね・・・

こんな人・企業にとっては、破綻は「突然」の出来事に思える
でしょうけど、実はずいぶん前から見える人には見えていた未来
なんですよね。

やっぱり、アンテナは外向きに高く立てましょうよ。

投稿者 松尾 順 : 08:25 | コメント (0) | トラックバック

ネットだから売れる

昔は、

「ネットで、ものが売れるわけない!」

と言われた時期がありましたね。


でも、今となってみれば、

「ネットで、売れないものはない!」(極論ながら)

という感じですけど。


さて、以前、売れない理由の第一として挙げられたのが、
バーチャル店舗の「信頼性」ですよね。

文字通り‘仮想’の店舗であり、物理的な存在が確認できない
お店からものを買うのは不安を感じるだろうということでした。

ただ、これは初回だけの話です。

ネットでもちゃんと取引できて、確かな商品が届けば、
次からはあまり不安を感じることはありません。

それに、実在の店舗があるからといって、
必ずしもそこに置いてある品が良品とは限らないし、
口のうまい店員にいいように丸め込まれ、買う気のなかった商品
を買わされることもあるわけで、実は店舗の実在性は信頼性とは
あまり関係ないということが消費者は元々わかっていました。


そして、もうひとつ、ネットで買わない大きな理由は、

「手に取って確かめられないから」

というものでした。

これは一見説得力のある理屈に思えます。
が、これは真実を知らない頭でっかちの先入観でした。

ネットでの販売、すなわち「Eコマース」は、
通信販売の進化形と言えるわけですが、
すでに通信販売の先達は、「通信販売だからこそ売れる」
という理由を発見していたのです。

それは、商品を購入後、実際に使用した時に消費者はどんな
価値を得られるのか、という「使用価値」を説明するのは、
店舗よりもカタログの方が優れているということです。

端的には、最新のファッション衣料。
店舗ではのっぺら坊、しばしば首なしのマネキンが着ている。
ポーズも取ってません。(笑)

生地は手にとって確かめられても、自分がこれを着たら
どのくらい良いのか、イメージしにくいですよね。


一方、通販のカタログには、理想(なりたい)の自分を
投影できる、スタイル抜群の生身のファッションモデルが、
その衣料品が最も際だつポーズを取って着ています。

どちらが、使用価値を実感でき、また購買意欲がそそられる
でしょうか?


「料理器具」なんかも同じですね。
デパートなどで売場に並んでいる鍋をいくら手に取って
眺めてみても、それでどんなにおいしい料理が作れるのか、
まるでわかりません。

でも、カタログなら、鍋の中で出来立てのシチューが
湯気を立てている、そんな写真を見せることができます。

店頭で単なる飾り物となっている現物を見るよりも、
カタログで使用後の写真を見た方が、よほど「使用価値」が
伝わるということです。


以上の話、実は通販生活の創業者、斉藤駿氏の説です。

通販生活のカタログが、他の通販会社と比較すると
1アイテムあたりのコピーがやたらと多いのは、
商品の「使用価値」を最大限に伝えようという意図が
あったわけですね。


さて、Eコマースでは、紙のカタログよりもさらに表現力豊かに
商品の「使用価値」を伝えることができます。
リアル店舗ではまず聞けない、既存ユーザーの声も豊富。

ですから、

「ネットだから売れる」

ということは、通販をやっていた人なら
最初からわかっていたことでしょう。
(白状しますと、私も頭でっかち。
 Eコマースの市場性については半信半疑でした・・・)


なお、斉藤さんによれば、

「通販は、時間節約になる、便利だから売れる」

という考え方は間違いだそうです。
(Eコマースでも同じ考え方が浸透していますが)

通販では、基本的に街中で手に入りにくいものがよく売れる。

逆に言えば、近くの店ですぐに買えるようなものは、
そうそう通販では売れない。(例外は「アスクル」くらい)

確かに!
ネット・コンビニは確かにいまだ浮上してませんね。


*参考文献
 「なぜ通販で買うのですか」(斉藤駿著、集英社新書)

投稿者 松尾 順 : 12:17 | コメント (0) | トラックバック

新聞を毎日読んでいる人は、たった1人!

以前もご紹介しましたが、
25歳以上の男性対象のフリーペーパー「R25」を
リクルートさんが立ち上げるに当たって、
グループインタビュー調査をやったそうです。

それで、集まった人たちに「新聞読んでますか?」
と聞いたところ、みんな揃って「日経新聞を読んでいます」
と答えた。


「ホントかな?」といぶかしがったリクルート担当者は、
今度は、アンケート調査で「新聞を読んでいない」と回答した人
だけを集めて同じ質問をしてみた。

すると、やはり

「新聞?もちろん読んでいますよ!」

と答えた。(ウソついてるじゃん)


どうやら、本当の自分ではなく、理想の自分、ありたい自分
(経済紙をしっかり読んでるイケテルビジネスマン?)に
合わせて、思わず嘘の回答をしてしまうらしいんですね。

そこで、「R25」では、新聞が読めるようになるための入り口
(ポータル)的な、わかりやすい記事を掲載することを編集方針に
したそうです。

アンケートでは素直に答えられていても、
グルインのような対面式の調査だと、自分を良く見せたいという
意識どうしても強く働いてしまうんですよね・・・


ところで、マーケティングやコミュニケーションの
コンサルティングや講師をやっている知人の話です。

先日、マーケティングの社内研修(一部上場企業の社員さん)で、

「この中で新聞を毎日読んでいる人は?」

と聞いたところ、

なんと「1人」しか手が挙がらなかったそうです。

実に素直、正直でヨロシイのですが、ちょっと唖然としますよね。

知人は、どうりで「外部環境分析」がうまくできないはずだと
なげいていました。


私にも同様の経験があります。

あくまで一般的な傾向なんですが、安定した企業にいる人ほど、
世の中の変化に対する関心が低いようです。

情報収集のアンテナは、外向きには低く、
内向きには高く立っている感じ。(⌒o⌒;

つまり、自分の組織の内部事情にはやたら詳しい、でも
ビジネスパーソンなら最低限おさえておきたい4つの外部環境、
すなわち、

P:Political 政治環境
E:Economic   経済環境
S:Social  社会環境
T:Technological 技術環境 

について、ちゃんとトレンドを把握しておこうという意欲があまり
感じられないんですよね。


昨今は、

「情報収集は、インターネットだけで十分」

と考えている方が多いのかもしれません。


しかし、インターネット上に流れているのは
断片的な情報がほとんどです。情報は、ソーメン流しのように
その場で拾っては消費してしまうばかり。

さまざまな情報間の関係性を見つけてつなぎ、「知識」「知恵」
としてストックするのが結構難しいんですよね。
(つまり、使える情報転化しにくい)

また、新聞や専門誌などを情報源とした2次加工の情報も多く、
その「情報価値」は、大もとの情報源よりも低い場合が多い。
(私のブログ、メルマガも、情報源は主に新聞や専門誌ですから、
 情報価値はたいしたことないわけです)


もちろん、さまざまなメディアの強み、弱み、
得られる情報の偏りや信ぴょう性をしっかり見切った上で

「私はネットだけで十分」

と言い切ることができるのなら文句は言いません。


でも、そうした確信が持てないのであれば、
アンテナを「外向き」に高く立てて、
さまざまなメディアからの情報を積極的に収集、選別できる
意欲と能力を高めることが必要じゃないでしょうか。


これまた以前から申し上げてきたことの繰り返しになりますが、
斬新な発想を生み出す一番最初のステップは、
多種多様な情報を継続的に蓄積することにあるわけですから。

投稿者 松尾 順 : 14:56 | コメント (4) | トラックバック

学習意欲を高める作戦

知恵市場にアップしたものをこちらにも転載します。
テーマがちょっと外れますが、週末番外編ということで・・・!


変化の激しい昨今、私たちビジネスパーソンは、
あっというまに陳腐化する知識やスキルに拘泥することなく、貪欲に
新たな知識、スキルを獲得しつづけることが必要!

とはいえ、諸般の事情で日常に流されてしまいがちな中、
学習意欲を喚起し、また維持するのは大変なものです。

というわけで、「学習意欲を高める作戦」。

現在履修中の「熊本大学大学院(修士課程)社会文化科学研究科 教授システム学専攻」
の前期で学んだ「eラーニング概論」のテキストから、学習者のためのヒント集を
ご紹介します。

なお、このヒント集は、学習の動機づけモデルのひとつ、

「ARCSモデル」

に沿っています。
「ARCSモデル」とは次の4つの側面で学習意欲を捉えるものです。

Attention(注意):面白そうだなあ!
Relevance(関連性):やりがいがありそうだな!
Confidence(自信):やればできそうだな!
Satisfaction(満足):やってよかったな!

それぞれの英語の頭文字をとって「ARCSモデル」と命名されているわけです。

以下、ほとんど丸ごと転載となりますが、著者の鈴木克明先生(上記大学院の
専攻長)によれば、版権表示付きで配布自由とのことですので遠慮なく
掲載させていただきます。お読みいただいた方も、プリントアウトしたりして
利用する際は、この点にご留意くださいね。

ここに書かれていることは、言葉にしてしまえばごく当たり前のことに感じるかも
知れませんね。ただ、大事なのは実行しているかどうかです。

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[学習意欲を高める作戦(学習者編) ~ARCSモデルに基づくヒント集]
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■注意(Attention):面白そうだなあ!

●目をパッチリ開ける:A-1:知覚的喚起(Perceptual Arousal)
・勉強の環境をそれらしく整え、勉強に対する「構え」ができるように工夫する
・眠気防止の策をあみだす(ガム、メンソレータム、音楽、冷房、コーヒー、体操)
・眠い時は眠い。十分に睡眠をとって学習にのぞむ

●好奇心を大切にする:A-2:探究心の喚起(Inquiry Arousal)
・なぜだろう、どうしてそうなるのという素朴な疑問や驚きを大切にし、追及する
・今までに自分が習ったこと、思っていたことと矛盾がないかどうかを考えてみる
・自分のアイディアを積極的に試して確かめてみる
・自分で応用問題をつくって、それを解いてみる
・不思議に思ったことをとことん、芋づる式に、調べてみる
・自分とはちがったとらえかたをしてる仲間の意見を聞いてみる

●マンネリを避ける:A-3:変化性(Variability)
・ときおり勉強のやり方や環境を変えて気分転換をはかる
・飽きる前に別のことをやって、少し時間をおいてからまた取り組むようにする
・自分で勉強のやり方を工夫すること自体を楽しむ
・ダラダラやらずに時間を区切って始める

------------------------------------------------------------

■関連性(Relevance):やりがいがありそうだなあ!

●自分の味付けにする:R-1:親しみやすさ(Familiarity)
・自分に関心がある得意な分野にあてはめて、わかりやすい例を考えてみる
・説明を自分なりの言葉で(つまりどういうことか)言いかえてみる
・今までに勉強したことや知っていることとどうつながるかをチェックする
・新しく習うことに対して、それは○○のようなものという比喩やたとえ話を考えてみる

●目標を目指す:R-2:目的指向性(Goal Orientation)
・与えられた課題を受け身にこなすのでなく、自分のものとして積極的に取り組む
・自分が努力することでどんなメリットがあるかを考え、自分自身を説得する
・自分にとってやりがいのあるゴールを設定し、それを目指す
・課題自体のやりがいが見つからない場合、それをやりとげることの効用を考える
 (例えば、評判があがる、報酬がもらえる、肩の荷がおりる、感謝される、
  苦痛から解放されるなど)

●プロセスを楽しむ:R-3:動機との一致(Motive Matching)
・自分の得意な、やりやすい方法でやるようにする
・自分のペースで勉強を楽しみながら進める
・勉強すること自体を楽しめる方便を考える
 (例えば、友達<彼氏、彼女>と一緒に勉強する、好きな先生に質問する、
  秘密にしておいてあとで親などを驚かせる、友達と競争する、ゲーム感覚で取り組む、
  後輩に教えるなど)

------------------------------------------------------------

■自信(Confidence):やればできそうだなあ!

●ゴールインテープをはる:C-1:学習要求(Learning Requirement)
・努力する前にあらかじめゴールを決め、どこに向かって努力するのかを意識する
・何ができたらゴールインとするかをはっきり具体的に決める
・現在の自分ができることできないことを区別し、ゴールとのギャップを確かめる
・当面の目標を「高すぎないけど低すぎない」「頑張ればできそうな」ものに決める
・自分の現在の力にあった目標がうまく立てられるようになるのを目指す

●一歩ずつ確かめて進む:C-2:成功の機会(Success Opportunities)
・他人との比較ではなく、過去の自分との比較で進歩を認めるようにする
・失敗は成功の母:失敗しても大丈夫な、恥をかかない練習の機会をつくる
・千里の道も一歩から:可能性を見極めながら、着実に、小さい成功を重ねていく
・最初はやさしいゴールを決めて、徐々に自信をつけていくようにする
・中間目標をたくさんつくり、どこまでできたかを頻繁にチェックして見通しを持つ
・ある程度自信がついたら、少し背伸びをした、易しすぎない目標にチャレンジする

●自分で制御する:C-3:コントロールの個人化(Personal Control)
・やり方を自分で決めて、「幸運のためでなく自分が努力したから成功した」と考える
・失敗しても、自分自身を責めたり「能力がない」「どうせだめだ」などと考えない
・失敗したら、自分のやり方のどこが悪かったかを考え、転んでもただでは起きない
・うまくいった仲間のやり方を参考にして、自分のやり方を点検する
・自分の得意なことや苦手だったが克服したことを思い起こして、やり方を工夫する
・何をやってもだめという無力感を避けるため、苦手なことより得意なことを考える
・自分の人生の主人公は自分:自分の道を自分で切り開くたくましさと勇気を持つ

------------------------------------------------------------

■満足感(Satisfaction):やってよかったなあ!

●無駄に終わらせない:S-1:自然な結果(Natural Consequences)
・努力の結果を自分の立てた目標に基づいてすぐにチェックするようにする
・一度身に付けたことは、それを使う/生かすチャンスを自分でつくる
・応用問題などに挑戦し、努力の成果を確かめ、それを味わう
・本当に身に付いたかどうかを確かめるため、だれかに教えてみる

●ほめて認めてもらう:S-2:肯定的な結果(Positive Consequences)
・困難を克服してできるようになった自分に何かプレゼントを考える
・喜びをわかちあえる人に励ましてもらったり、ほめてもらう機会をつくる
・共に戦う仲間を持ち、苦しさを半分に、喜びを2倍にする

●自分を大切にする:S-3:公平さ(Equity)
・自分自身に嘘をつかないように、終始一貫性を保つ
・一度決めたゴールはやってみる前にあれこれいじらない
・できて当たり前と思わず、できた自分に誇りをもち、素直に喜ぶことにする
・ゴールインを喜べない場合、自分の立てた目標が低すぎなかったかチェックする

------------------------------------------------------------
出展:鈴木克明(1995a)『放送利用からの授業デザイナー入門』日本放送協会、
   102-105頁。版権表示付きで配布自由・1995鈴木克明

投稿者 松尾 順 : 19:08 | コメント (0) | トラックバック

安すぎるから買わないよ!

米国では、2006年度の自動車部門サービス顧客満足度調査で
第1位を獲得、英国では同調査で6年連続1位と、
海外で大成功している、トヨタの高級車ブランド「レクサス」。


「レクサス」が日本に逆輸入され、本格展開を始めてほぼ1年が
経過しました。メインのターゲットは、もちろん「富裕層」です。

2005年の販売台数は、目標の半分の1万台にとどまったそうです。
(日経産業新聞、2006/08/30)


初年度は基盤づくりの時期であり、目標台数も元々大きめだった
と言われていましたが、営業の現場では、従来の「待ちの営業」
の方針を修正。

リッツカールトンホテルなどの優れたサービスに学んだ、
丁重なおもてなしを基盤とする店舗での顧客対応に加えて、
外回りの営業にもチカラを入れています。


さて過去1年、あとひとつレクサスがふるわなかった最大の理由は、
輸入高級車からの乗り換えがあまり進まなかったからです。

ベンツやBMWなど強敵輸入車の強みは、なんといっても
「ブランドイメージ」ですよね。

海外ではすでに互角に近いところで戦えているとは言え、
日本ではまだこれからのレクサスとしては、
「ブランドイメージ」の向上を最優先課題とすべきです。

ですが現実にはそうしなかった(できなかった?)のが
販売の足を引っ張ったようです。


レクサスの「ブランドイメージ」向上には、
まず、高いブランドイメージを形成するパワーを持つ強力な
基幹商品を投入すべきですよね。

ところが、お値段700-1000万円の基幹車種「LS」の投入は、
ついこの間、今年の7月でした。
(「LS」の出足は好調のようです。)


しかし、最初に投入した「IS」(旧アルテッツア)は、
最もレクサスらしいデザインではあったものの、
値段が安すぎました。

安すぎたといっても300万円台、私には手がでませんが(笑)、
それでも、この価格帯は「(富裕層向けの)高級車」
とみなすことはできないですよね。


マーケターの方ならほぼ常識のことだと思いますが、
高級ブランドは値段が高ければ高いほど、ある意味
ありがたがられますよね。

数千万の高級車を買う、乗り回すということは、
それだけの経済力がある、社会的成功を収めたということを
回りに暗示する「シグナル効果」を持つからです。

つまり、高級車では、性能が良い、燃費が良い、安いといった
「実用価値」ではなく、「象徴的価値」が重視されるわけです。


ところが、「IS」の場合、若年層も視野に入れるため、
価格をあえて300万円台に抑えた。つい色気を出してしまい、
ブランドづくりだけに注力せず、ターゲット層を拡大して
販売台数増加を狙ったことが問題でした。

結果を見る限りでは、この色気が逆効果になってしまった
ようです。本来のターゲットであった富裕層が、
「IS」に対して「象徴的価値」を認めなかったからです。

おそらく、

「300万円じゃ、安すぎるから買わないよ!」
 (成功者の自分にふさわしくないからね)

と判断されてしまったんでしょうね。


しかし、ようやく「象徴的価値」を認めることのできる「LS」を
手にしたレクサスブランドの2年目の展開が楽しみです。

投稿者 松尾 順 : 13:47 | コメント (0) | トラックバック