タオルなケーキ

さっき、なにげに日経デザイン(April 2006)を
めくってていたんですね。

そしたら、「ケーキの詰め合わせ」のアップ写真がでてきて
思わずヨダレが・・・
ロールケーキ、チョコレートケーキ、ストロベリーケーキ、
どれもおいしそうだったのですよ。


でも、目を近づけてよく見るとケーキの生地はタオルそっくり。
というか「タオル」そのものでした。(驚!)

これまでも、タオルを丸く結んだりしてセンス良く見せるのは
ありましたが、ここまでホンモノのケーキにそっくりなタオルを
作ってしまうなんて。

この製品は「ル・パティシェ」です。


発売開始は2005年1月。価格帯は実物のケーキと同じ。

・ムース 315円
・ショートケーキ 525円
・マフィン 262円
・ロールケーキ 630円

といった感じです。


ケーキそっくりだけど、その正体は単なるタオル。
よく考えるとずいぶん割高ですよね。

しかし、バカ売れしてます。

有名デパートの催事販売では、一日に80万円の売上げを
記録したこともあったとか。

当然、自家消費ではなくてギフト需要で売れているのですが、
「ル・パティシェ」の場合、一般のギフト商品のように
3千円とか5千円とかの予算で機械的に選ぶのではなく、
贈る相手の驚いた顔や喜んでいる様子を想像して買ってる
お客さんが多いそうです。

贈られた相手も喜ぶだろうけど、
贈る側の自分も、楽しい気持ちになれる。
脳汁ドバー状態でしょう。

こんなギフト、他にあまりないですよね。

「ル・パティシェ」は、
無機質なタオルをケーキに仕立てたことで、
視覚だけでなく、味覚にも訴える魅力を持ち、
かつ、わくわくする感情を生み出すことに成功しているわけです。

だから、割高だとは思わず喜んで買ってしまう。

「ル・パティシェ」は、デザインの力が大きな付加価値を
生み出すことを実感させてくれる商品ですね。


また、マーケティングに興味深いのは、
当製品の具体的なブランドイメージを明確にするため、
企画の段階で架空のパティシェを設定し、
その人物像を思い描いた点です。


「父親から技を受け継いだ2代目の若手パティシェ。
 大学時代をどう過ごしたか。趣味は何か。
 彼ならどんな屋号をつけるか。
 店の独自性を出すためにどんなケーキを作るか・・・。
 そういったイメージをル・パティシェのモノ作りに落とし込んだ」
(企画者のプレーリードッグ執行役員企画室長、威脇忠義氏)

そうです。

つまり、 「ペルソナ法」を応用していたようです。
ペルソナ法はブランディングにも有効な思考ツールなんですね。

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (0) | トラックバック

炭団の夜

先日夜、前の会社の元同僚たちと、御茶ノ水駅そばの

「焼肉居酒屋 炭団(たどん)」


に行ってきました。


炭団は、3月20日にオープンしたばかり。
居酒屋大手「ワタミ」の新業態1号店です。

あのワタミさんが焼肉店展開に打って出る最初の店ですから、
美食家マーケター(笑)としては必見。

「実地調査」に乗り込んだというわけです。


さて、調査結果を簡単にご報告しますと、まず魅力は安さ。

カルビ、ハラミ、ピートロ、ホルモンなど、
各種の「基本肉」が380円から。

値段のわりには柔らかくておいしいね、というのが
元同僚たちと一致した意見です。


ただ、日経MJの記事(2006.03.24)によると、
炭団のカルビは80グラムで380円。
一方、牛角は、同110グラムで490円ですから、
グラム当たりの価格比較では大差がありません。

それでも、絶対価格の「380円」は、
単純に「安い」と感じます。

このあたりは、さすが顧客心理をよく読んでいますね。


また、目立つ点としては、ドリンク類の豊富さです。

ビール、サワー、ワイン、焼酎(日本、韓国)、ウイスキー、
日本酒、カクテル、なんでもござれといった感じ。

このドリンクメニューの充実にもちゃんと理由があります。

焼肉で一定の品質を保ちつつ手頃な値段で提供しようとすると、
ワタミの既存の居酒屋の食事メニューよりも、
粗利益率が10%ほど低下するそうです。このため、代わりに
ドリンクをたくさん飲んでもらって利益確保を狙っています。


また、なにせ開店して1週間ほどの一号店ですから、
サービスも気合入っていますね。

スタッフのモチベーションも高いし、
十分な教育を受けていることがうかがわれました。

来店時には、においがつきにくいようにコートやスーツの
上着を入れる「コートカバー」を貸してくれたり、
コートやかばんなどを入れられる「収納ケース」が
各テーブルの下に置いてあるなど細かい気配りにも感心。

残念ながら、まだ「オペレーション」が十分に回っていないようで、
最後に頼んだ「カルビクッパ」を食べたらやたらぬるい。
調理に失敗したようです。

すぐに作り直してくれたのでOKでしたけどね。

まあ、でも全体としてみれば、

「牛角に勝ってるかも!」

という感想です。

事務所から近いのでまた行きたいと思います。
リピーター作りの仕掛けはなんにもやってなかったですけど。


ところで、ワタミさんがなぜ焼肉屋を始めたのか。

社長の渡邉美樹氏によると、居酒屋マーケットが予想以上に
縮小しているからだそうです。(日経アソシエ、2006.03.07)

居酒屋のメインターゲットである若年層が長期的に減少していく
見込みであることに加えて、日本経済が二極化。

居酒屋は、生活レベルではいわゆる「中流」を
お得意さんとしてきたわけですが、近年、中流が上流(富裕層)、
もしくは下流(いわゆる年収300万円以下の世界)に分化し、
上流と下流の間が空洞化しつつあります。

上流の人たちはめったに居酒屋には行きませんし、
下流の人たちは、居酒屋の代わりにコンビにで酒を買って
自宅で飲む。

つまり、中流層市場が限定・縮小する中で、
収益を維持、拡大するためには、「居酒屋」業態の中で
いくらバリエーションを増やしても利用客は増えない。


そこで、新業態というより新業種と呼べる「焼肉店」を
立ち上げることがベストの戦略と判断したようです。

渡邉社長によると、「中華」にも目をつけているそうですので、
ワタミ版「中華料理店」の登場も近いかも。

投稿者 松尾 順 : 13:00 | コメント (0) | トラックバック

愛されるサービス

私は大学生を5年間やりました。(^-^)

がんばらないと卒業が危なかった最後の1年強は、
キャンパスに足繁く通いましたが、
残り4年弱の大半はもっぱら飲み屋に通ってました。

アル中で入り浸ってたとかじゃなくてですね、
パブレストランや居酒屋のウェイターとしてです。

人付き合いは決して得意ではなかったのですが、
学生になって初めてのアルバイトがサービス業、つまり
接客の仕事で、それを4年近くもやってしまったのは、
今思うと自分でも驚きです。


さて、当時は20歳かそこらで無我夢中でしたから、
サービス業のなんたるかまったくわかってませんでした。

でも、10年くらい後になって、顧客との関係性を重視する考え方、
つまり「CRM」(Customer Relationship Management)が
登場し、いろいろ研究してみると、CRMにおける成功原則の
ほとんどは、サービス業の成功原則であることがわかりました。

CRMは、商品を売るという視点ではなく、顧客を満足させる、
喜ばせるという視点で発想しますから、人とダイレクトに接する
サービス業においては当たり前のことだったんですね。


では、私がアルバイトしていたレストラン(飲食店)業界での
成功原則は何だと思いますか?


この答えとしては、その道のプロフェショナル、
元グローバルダイニングの新川義弘氏の持論が素晴らしいです。

新川氏は、お客様に感動を与えるサービスのためには
次の3要素(能力)が必要だと考えています。

・アンティシペーション(事前予知力)
・リコグニション(顧客認知力)
・オペレーション(運営力)


「アンティシペーション」とは、水のおかわりが欲しいとか、
テーブルをきれいにして欲しいとか、お客様が心の中で
して欲しいと思っていることを的確に読めること。

これは、私の提唱する「マインドリーディング」
(顧客心理解読法)と同じことですね。

お客様の心理を読んで、先回りしてサービスできれば、
お客様は、

「すごい!よく私の望みがわかったね!」

と感激してくれる。

これが、「ホスピタリティ」(気配り)に通じるわけです。


「リコグニション」は、お客様のお名前や以前注文したメニューや
好みを覚えていること。

「いつもの席でいつものやつね!」

「はい、かしこまりました」

で通じるお店があれば客としては気持ちいいですよね。
リピート客確保のためには不可欠の能力でしょう。

これは、リッツ・カールトンホテルさんも得意の能力ですね。


最後の「オペレーション」とは、たとえ混んでいる時でも、
スムーズに席に案内できたり、的確に注文をさばき、
タイミングよく料理を出せること。

つまり、「店を回す力」です。

これは、お客様が求めているコアのサービス
(飲食店の場合、食事ですね)をちゃんと提供できるかどうかを
左右しますから、顧客満足度アップのためにも重要です。

新川氏によれば、オペレーションをうまくやるために、
アンティシペーションが役に立つそうです。
確かに、次にお客さまが何を望むかを先に先に読めれば、
スムーズなオペレーションができる事前準備が容易になります。


お客様に感動を与える3要素、

・アンティシペーション
・リコグニション
・オペレーション

は、レストランに限らず、
お客様と直接接するコンタクトポイントであれば、
どこでも通用する基本原則と言えるでしょうね。

コールセンターやWebサイトでも、もちろんです。


*新川氏の話は、

「愛されるサービス」(新川義弘著、かんき出版)

から。

とても良い本です。オススメ!

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (0) | トラックバック

消費財メーカーのロングテール

「大好きだったあのお菓子、
 なんでもうどこに行っても手に入らないの?」

こう叫んで悲嘆にくれたことありませんか・・・


流通小売業における「IT化進展」の最大の功罪のひとつは、
市場に出回る新商品数を大幅に促進させたことにありますね。

商品アイテム(単品)レベルでどの位売れているか
即座に把握できるPOSシステムのおかげで、
売れ筋、死に筋がすぐにわかってしまう。

鳴り物入りで登場した、あるいは社運をかけた新商品でさえ
最初の1-2週間の売れ行きが悪いと即座に棚から撤去。

売れ残った在庫はディスカウントストアなどに流され、
最後は生産中止に追い込まれます。


大金かけて消費者調査を行い、
頭を絞って商品コンセプトを生み出し、
必死の形相で各部署を駆けずり回って段取りをつけ、
ようやく上市できたと思ったらあっという間に生産中止。

それでも、売上げを維持するためには、
次々と新商品を投入し続けなければならない。

振り返ってみれば、育たなかった新商品の死屍累々。

こんな悲惨な経験を味わされている消費財メーカー各社の
マーケターの皆さんの思いはいかほどでしょう・・・


これってどうにかならないものでしょうか。


消費者としては、いろいろと目新しい商品が出てくるのは
うれしいことではありますよね。

ただ、大半があっというまに消え、定番として残る商品は
数えるほど。自分は好きだったあの商品も総売り上げが
良くなければ、二度と手に入れることができなくなります。

しかも、冷静に考えてみれば、
生まれてすぐに消されてしまったかわいそうな新商品の数々の
ために投下された費用は、生き残った商品の価格にも
反映されているのです。

つまり、ITの進展によって引き起こされた過剰な
新商品ラッシュは、消費者にとっては割高な価格という
結果になっているわけです。


でも良い方法がありました。
やはり「インターネット活用」です。

田坂広志さんの「事物の螺旋的発展」に照らして考えれば、
作ったものを自ら消費者に売る「豆腐屋さん」的商売への
「復古」とネット活用の「革新」の組み合わせといえる
でしょうか。

要するに、消費財メーカー自らネット通販に
もっと力を入れればいいんです。

消費財はおおむね単価が安く、
配送コストが割高になるという問題があります。

ですが、いわゆる「ロングテール」の考え方からいけば、
今よりも多くの新商品が一定以上の売上げを確保し、
生き残ることができるようになるかもしれない。

あるいは、逆にまずネットで一定の固定客を確保しておいてから、
リアルな店舗に流すという、従来とは逆のやりかたを取れば、
無駄死にする新商品を減らせる可能性がありますよね。


「江崎グリコ」さんも、最近、ネット販売を強化し、
最寄の店で手に入らなくなった商品を消費者が直接メーカーから
購入することができる仕組みを充実させました。

取り扱い商品数も、従来の2倍の150種類に増やす計画です。

同社が毎年出す新商品は200点前後で、これまでは
やはり大半が消え行く運命にありました。


しかし、これからは、こうした新商品をネットチャネルを
通じて販売することで、消費財メーカーの商品開発の
あり方も大きく変わっていくかもしれません・・・

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (0) | トラックバック

顧客の平均年齢71歳

私の持つ、たくさんの暗い過去のひとつに、

「旅行会社の社員で悩み多き日々を過ごした」

という経験があります。(^-^)

新卒で入った中堅の旅行会社でしたが、
いろいろと挫折や悲哀を味わいました。
(会社自体はいいところでしたよ)

今もあいかわらず不器用ですが、
当時はもっと生き方が不器用だったせいです。


私のことはともかく、(⌒o⌒;

旅行会社は、以前は「旅行代理店」とも呼ばれていたように、
鉄道、バス、航空券などの交通機関や、ホテル、旅館などの
宿泊施設、そして、名所・旧跡などの観光地・施設の手配の
「代行」によって手数料を得ます。

手数料率は、ざっくり丸めていうと、高くても20%前後、
低いものは3%程度です。
これが=「粗利益率」ですから、
人手のかかる商売にしては利益率が著しく低い。

手配代行だけやっていては儲からない商売です。

この構造は、広告業界と非常に似ています。
ただ、広告業界は単価も高く、一社当たりの取扱額が
数億~数十億になることもありますから、
手元に残る「粗利益額」は莫大です。
このあたりは商社に近いものがありますね。


さて、旅行会社に話を戻すと、
単なる代理業に止まっていては儲からないし面白くないわけです。

やはり、企画料やサービス料といった形での付加価値を提供して、
より大きな収益を上げる知恵と工夫が必要になります。


その意味で、マーケティング専門誌「アイ・エム・プレス」
最新号(2006.4)の巻頭インタビューに登場した

「ニッコウトラベル」

さんの取り組みは注目に値するものでしょう。

ニッコウトラベルさんのツアー参加者の平均年齢は71歳!
私の勝手な想像ですが、ほぼ全員総入れ歯でしょうし、
歩くのだってもうそんなにすばやく動けない。

しかも、長い人生を過ごしてきて、旅行歴は20-30回は
当たり前。ありきたりの企画では満足してもらえません。


そんなわけで、若い人向けのツアーと違って、
企画内容や食事、時間配分に特別の配慮が必要になります。

ただ、逆に言えば、
うまくノウハウを確立できれば儲けは大きい。


ニッコウトラベルの場合、
ツアー申込書の職業欄には、参加者全員が「無職」と
書くそうですが、元上場企業の役員だった人とか、
いわゆる「資産持ち」の富裕層です。

いったん気に入ってもらえば、リピートしてくれるし、
顧客単価も高い。記事によれば、パッケージツアー1本
当たり55万円だそうです。

記事では、ニッコウトラベル社長の久野木和宏氏が取材に
応じているのですが、他の旅行会社との差別化の
ポイントについて、次のようなコメントをしています。


“旅行会社には「旅行を販売するだけの会社」と
「旅行を作るだけの会社」、そして添乗などを含めた
「旅行を運営する会社」の3つがあると思っています。”

“当社は、このうち「旅行を運営する会社」に当たり
ますが、これは中でも一番大変なことだと考えています”


「旅行」というサービス商品の場合、その運営プロセス
において特に、「人」に依存した深い知識、ノウハウ、
経験が必要です。

久野木社長は、この部分にこそ、他社が簡単に真似できない
差別化ポイントがあると考えているんですね。


ついでながら、ニッコウトラベルさんと同様、
旅行の運営に強みを持ち、差別化に成功している旅行会社には、

「オーロラを見ながら星野道夫を語る会」といった冒険的企画が
面白い「地球探検隊」さんや、
車椅子の方などの障害者の旅行に特化した「ベルテンポ」さん

などもありますね。


一見儲かりそうにない、面倒で手間のかかるところに、
実は、「儲けの種」があるように思います。

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (3) | トラックバック

黒みそラーメン

「黒みそ」というのがあるんですね。

「赤みそ」は知ってたけれど、「黒みそ」があるなんて
知らなかった。

で、「黒みそラーメン」というのを昨日初めて食べてみました。
東大赤門の近くにあるラーメン屋です。
店に行ったのも初めてでした。

食事をした時間は午後3時過ぎ。
カウンター10席ほどの店ながら、ほぼ満席でした。

値段同じで麺大盛り可、しかも、
ご飯もサービスで付いてくるので、特に学生には魅力でしょうね。

私が食べている間も次々とお客さんが来たので
けっこう人気の店なんだと思います。


「黒みそラーメン」

が出てきました。

うっ・・・

見た目はどす黒い泥水の中に麺が沈んでいるイメージ。
真っ黒ではなく、やや灰色が混じったあまり食欲をそそらない
カラーリング。

思い切って食べてみました。(笑)
ふむ、味は悪くない。でもちょっと油が強いかな。


ところで、「黒みそ」というのは、
竹炭を混ぜ込んで煮込んでから熟成させたみそのことだそうです。

竹炭の特徴は、店内にあったカードによると、

・優れた吸着力体内の解毒・成長をし、体調を整えると言われています。
・不足しがちなカルシウムなど、必須ミネラルの補給源になると言われています
・マイナスイオンを供給し、活性酸素をできにくくすると言われています

というわけで、今はやりのデトックス(解毒)対応の大変健康的なラーメン
というわけですね。

私はあまり味がスキではなかったので、たぶん今後行かないと思いますが。(^-^)


それはそうと「黒みそ」のルーツはどこなんでしょうか。
ご存知の方、教えてください!!

投稿者 松尾 順 : 11:43 | コメント (0) | トラックバック

存在の耐えられない軽さ

ファスナー(ジッパー)と言えば・・・?

そうですね、「YKK」です。

YKKさんは、

「言わずと知れた」ファスナー市場のトップブランド

のはずでした。

確かに世界70カ国・地域、世界シェアは、現在も約46%と磐石。


ところが、2004年春、知名度調査の結果にYKKの役員陣は
愕然とします。

野村総研が実施した調査によると
30-50代で、「YKK」を知らない人は5%以下であったのに対し、
20代は、10人に1人が、10代では、10人に3人が「YKK」を
知らないと答えたのです。

YKKの役員陣が驚いたのは、自分たちは知名度が高いと
思い込んでいたからです。しかし、若年層に限って言えば、
思い違いだったことが事実として突きつけらたわけですね。


私は現在42歳ですが、
小さい頃から繰り返し見たテレビCMのおかげで、
「YKK」のブランドが頭にこびりついています。

CMの最後に「Y・K・K」と、社名を言う男性の声を
今でも明瞭に思い出します。
調査結果が示すとおり、30代以上のほとんどの方が、
あの男性の声を覚えてるんじゃないでしょうか。

YKKの主力商品、「ファスナー」はいわゆる「産業材」です。
バッグや衣料品の部材として利用されるため、最終消費財メーカー
と比べると、元々消費者にとっての「存在感」は軽い。

でも、YKKさんは60年代からテレビCMに力を入れ、
一般消費者でさえもよく知っているブランド力を築くことに
成功していたわけです。

よく産業材のブランディングの成功事例として、
パソコンの部材であるCPUの「インテル」
(インテル、入ってる!)が紹介されますよね。

でも、「YKK」は、インテルの取り組みのはるか昔から、
産業材ブランディングに取り組んでいたんです。


さて、近年、20代以下での知名度が低くなったのは、
80年代後半から、テレビCMを控えたためだそうです。

産業材だけに、広告量の減少がブランド知名度の低下に
如実につながっていることがわかります。


YKKさんとしては、これ以上の存在の軽さには耐えられない
ということでしょう。

これ以上の知名度低下は、優秀な人材の確保にも支障をきたす
可能性もあります。

そこで、YKKさんは、

「一般消費者への露出を高めること」

を重要な経営課題として位置づけ、
2005年度は、2001年度の3倍の広告予算を投下しています。

そういえば、昨年後半、JR山手線の車体広告で、
YKKのファスナーを描いたものをよく見かけました。


知る人ぞ知るで良いマイナーな産業材なら別ですが、
消費財に組み込まれてとしてマス市場を狙っていくメーカーなら、
一般消費者向けブランディングも重要なマーケティング施策
なんだということを再認識させられますね。

以上、日経産業新聞(2006.03.22)の記事を元に書きました。

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (0) | トラックバック

哲学的発想法

「歴史は繰り返す」

と言いますね。

確かに、時、ところ、状況、登場人物は違っても、
その出来事の本質を深く洞察してみると、
以前に起きた出来事とほぼ同じパターンが見出せることが多い。

ということは、

・未来に何が起きるのか、
・どのような変化がもたらされるのか

のヒントは「過去にある」と言えることになります。


そして、その過去のヒントから未来を予見するため、
あるいは新しい発想を生み出すことに有効なのが
「弁証法」です。ヘーゲルの哲学ですね。

田坂広志さんによれば、「弁証法」のただひとつの法則を
学ぶだけで十分なのだそうです。

それは、

「螺旋的発展」の法則。

物事が発展するとき、直線的に発展するのではなく、
螺旋(らせん)的に発展する

ということです。


あたかも螺旋階段をぐるぐると回りながら昇っていくように
物事は進歩・発展する。

別の場所に向かって移動しているのではなく、ぐるっと回って
元の場所に戻ってきてはいるが、一段高い場所に進化している
ということです。


近年のネット革命によって、
私たちはこの法則を目の当たりにしていますよね。

例えば、ネットオークション。

昔、物品の販売は「競り」や「指値」で行われていました。
定価というものが存在しなかったのです。

しかし、近代産業社会では、この方式は手間と時間がかかる
非合理的なものとして、鮮魚や花きなどの一部の物品を除いて
いったん消えてしまいました。

ところが、ネットオークションは、多対多の競り、指値の
取引を合理的な仕組みで行うことを可能にしました。

やっていることは、懐かしい、昔ながらの買い手と売り手の
丁々発止のやり取り。でも、それは、最新のITシステム
上で行われており、確かに螺旋的に一段上昇しているのです。


田坂氏は、こうしたことを

「進歩・発展」と「復活・復古」が同時に起こる

と表現しています。


私が、この春から、熊本大学大学院で研究する「eラーニング」
も螺旋的発展の一例です。

「eラーニング」は、単なる遠隔教育ではありません。
産業社会の発展によって導入された「集団教育」「一律教育」
のため、いったん消滅した寺小屋的な「自律学習」「個別学習」を
可能とする一段高い仕組みなのです。

つまり、懐かしい寺小屋がeラーニングによって甦ったのです。


さて、この「螺旋的発展」の法則に基づいて、
どうやって未来を予見できるのでしょうか、
また、新しい発想を生み出せるのでしょうか。

田坂氏は次のように説明しています。

まず

何が「復活」してくるかを、読む

ことです。このためには、

何が消えていったのか」を、見る

必要があります。

そして、

「なぜ消えていったのか」を考えます。

最後に、

どうすれば「復活」できるか、を考える

つまり、

かって合理化、効率化の流れの中で「消えていったもの」が
最近生まれてきた技術や方法を用いて「復活できないか」を
考えるのです。

新しい発想とは、異質なモノ・コトの組み合わせだというのは
すでに常識になりつつありますが、
この「螺旋的発展」の法則も、
使える発想法として活用していきたいものですね。


*上記にご紹介した内容については、
 「使える弁証法」(田坂広志著、東洋経済新報社)
に詳しいです。

*また、田坂氏の公式Webサイト「未来からの風」
 では、「風の対話」のコーナーで、
 田坂氏の肉声でのわかりやすい説明を聞くことができますよ。

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (0) | トラックバック

早い話が・・・

稀代の名コピーライター、仲畑貴志さんが宣伝会議に連載中の
エッセイを毎回興味深く読んでいます。

最近の中で面白いと思ったエッセイ(宣伝会議2006.2.15)は、

「早い話が」から発想する方法。


これは、早い話が、

“「早い話が」を枕にする発想法は、
        「核心」を捉えることができる”

というものでした。
おっと混乱させてしまいましたか・・・?

では早い話ではなく順を追って内容をご説明します。


広告表現の基本的視点は、仲畑さんが指摘されているように、

「何を言うか」(What to say)
「如何に言うか」(How to say)

の2点です。

ここで、「何を言うか」というのは、
広告対象となる商品のセールスポイント、つまり
「売り」(競合優位性のある特徴)のことですね。

で、「如何に言うか」というのが、
コピーライターの腕の見せ所になるわけですが、
仲畑さんがやっているコピーの発想法は次のようなものです。


原稿用紙の新しいページを開き、その一行目の最初(左端)に、
「早い話が」と書く。そしてそのまま

「早い話が・・・(なんとかなんとか)」

と続けてコピーを書く。

そして、行を改めて、

また「早い話が・・・(なんとかなんとか)」

と繰り返す。(以下同様)


そして、この「早い話がなんとかなんとか」というコピーを
書き連ねていって、これ以上思い浮かばないところで、
左端の「早い話が」と書かれた部分をすべて切り落とす。

その後、残った右側のコピー部分を一行一行吟味していくと、
その中に「核心」をついた捉え方を発見することが
できるのだそうです。


これは、早い話が、

コピーの

「基本コンセプト」

を明確化する方法だと言えます。(私の解釈です)

「基本コンセプト」が核心をついた明快なものであれば、
それに基づいて作成されたコピーもきっと、
ターゲットユーザーの心を鋭く突くものになるでしょうね。


なお、仲畑さんは、この「早い話が」発想法は、

「何を言うか」

を導き出すことにも使えると書いています。


なるほど、確かに。


売り込みにきた営業マンの要領を得ない説明を聞かされると、
思わず、

“早い話が、オタクの商品の「売り」はなんですか?”

と聞きたくなりますからね。

投稿者 松尾 順 : 06:00 | コメント (0) | トラックバック

カップリングのロングテール

最近のビジネス・バズワード(流行り言葉)のひとつに、

「ロングテール」

があります。


縦軸に、売上げを取り、横軸に、売上の高い商品アイテムから
順番に並べたグラフは、ゴジラが左側に顔を向けたような形に
なります。

ゴジラの頭から急な背中の斜面を下っていくと、
長い尻尾(ロングテール)が続きますよね。

それで、ゴジラの頭のあたりの商品は、
企業収益に大きく貢献している「売れ筋商品」、
いわゆる「ヒット商品」です。

一方、尻尾のあたりにある商品は、売れ行きのパッとしない
「死に筋商品」と呼ばれてきたもの。


これまで、「死に筋商品」は、売上げに対する販売管理コストが
上回り、利益がマイナスになることが多く、しばしば
取り扱いカット(販売停止)の対象にされたものでした。

でも、インターネットのおかげで、販売管理コスト、
すなわち、「広告・プロモーションコスト」、「販売コスト」
(決済手続きなど)、「在庫コスト」などが劇的に下がりました。

したがって、ヒット商品でないモノでも、
安定した利益をもたらしてくれる商品となりました。
それどころか、競合との価格競争に巻き込まれることのある
ヒット商品より、尻尾の商品の方が儲かることもある。

もはや、取り扱いをカットすべき「死に筋商品」とは
呼べなくなってきました。
これを「ロングテール現象」と呼びます。


さて、この概念、男性と女性(あるいは同性でもいいんですが)
の結びつき=カップリングにも有効です。

複雑になるのを避けるため、一応異性のカップリングに
ついて考えますが、客観的に見て、多くの人が好きになる
魅力的な異性というのは、いつの世にも存在しています。

そういう人は、大体においてパートナーには苦労しないのが
現実です。いわゆる売れ筋の人たち。
(うらやましいですよね・・・)


でもそんな人たちはほんの一握りです。

それ以外のフツーの人たちは、
相性のいい人とめぐり合わない限り、
なかなかカップルになることはできません。

ところが、人間関係の希薄化で、
お節介だけどありがたい仲人好きおばさんはほとんど絶滅。

職場でも、社内結婚相手として採用されてきた事務系正社員が、
IT進展で削減され、またパートや派遣社員で置き換えられて、
出会いの場や恋愛関係を進展させる機会も激減。

いわゆる、従来型の結婚相談所、結婚仲介サービスは
効果が高いかもしれませんが、それなりに高い。
誰でも利用できるわけではない。

フツーの人たちは厳しい状況に立たされています。


でも、すでに、
ネット上の結婚仲介サービスが

「カップリングのロングテール」

を生み出してくれているはずです。

ネット上のサービスなら、
男女が出会うための様々なコストがはるかに低いですから。


こうしたネットの結婚仲介サービスの中でも面白いのが、
ウェブサーカス(株)の「Will Bride」のサービスでしょう。


男性が、自己紹介ムービーや、結婚ブログ=日記を書いて
自己PRをし、女性の方が、関心を持った男性に交際を
申し込むという、「ねるとん」(古い!)とは逆、
プル型のスタイルが斬新ですね。


このサイトを紹介している、日経アソシエ最新号(2006.04.03)
の白川桃子氏の記事にあったウェブサーカスの社長コメントが
興味深く、

“女性が男性に申し込む方がカップルになる確率が、33.4倍”

だそうです。


これ、恋愛心理学で言われる、

「男性は、出会った女性の6割を交際対象として考えるが、
 女性は、出会った男性の3割しか交際対象として考えない」
(それだけ男性より女性の方が選別が厳しい)

という法則に基づいても正しい仕組みです。


昨今、男性も女性もやたら独身者が増えてますが・・・
またそれが少子化を促進してるわけですが・・・

それが自らの意思であればなんら異議を唱える気は
ありません。

でも、やっぱりカレ・カノジョが欲しい、
結婚したいとお考えなら、
ネットのロングテール現象に相乗りした方がいいです。

誰もが、その人ならではの魅力を備えているのですから、
大事なことは、いかにして数多くの人に、できるだけ低コストで
手間をかけずに、それを知らしめるか、じゃないでしょうか。

投稿者 松尾 順 : 14:45 | コメント (2) | トラックバック

大企業病とはよく言ったもので

仕事で米国自動車業界の調査を時々やることがありますが、
今の米国自動車メーカーはどこも軒並み不振で、好調なところはないですよね。

原因は分析するまでもなく、買いたくなるような車がないこと。

それは、ようするに「製品開発力の低下」であり、

それは、ようするに「顧客ニーズが把握できていない」のであり、

それは、ようするに「顧客志向ではない」のであり、

それは、ようするに「社内志向である」だということ。

「大企業病」なんですよ、端的には。

米自動車メーカーの中で特に不振を極めるのはGMです。
2005年12月期には、約9900億円の赤字を垂れ流してます。

このGMの大企業病が、相当重症であることをうかがわせるエピソードが
ちょっと前の日経産業新聞のコラムに掲載されてました。
(日経記者の体験を書いたものです)


米GMの開発拠点で働く日本人エンジニアに、取材のお礼と記事を
掲載した新聞を国際で送ったところ、

「宛名不完全との理由」

で太平洋を一往復して戻ってきたそうです。

住所や宛名に間違いはなく、GMのメールセンターまでは
届ていました。

しかし、封筒にGMのシールが貼ってあり、

「メールコードがありません」

というところにチェックマークが入っていた。

つまり、社内郵便物の仕分け用のGM独自のコード(9桁の数字)を
この記者は書き忘れていたので差し戻されてきたわけです。

エンジニアの名刺を改めて見ると、確かに9桁のメールコードが
記載されていたそうです。

しかし、住所も部署名も名前も記載されている国際郵便ですよ。
メール係の運用のためのメールコードがないだけで、
平気で受け取りを拒否してきたというわけです。


メールコードは、あくまで社内の業務効率化が目的。

その実現のために、社外の人間(既存顧客や潜在顧客を含む)の
手間を増やしてくれる企業体質には、あきれてしまいますね。

こういう大企業病は、日本企業にも似たようなところがあるでしょうけど、
やはり米国の方が多いようです。


そういえば、マーケティングや組織運営の理論は米国が進んでいると
よく言われます。実際そうですし、だから米国に学べということが
言われてきたわけです。

でも、そもそも米国企業は、GMのような病気をいろいろ抱えているから
必要に迫られて、その治療方法としての各種理論が発展してきたんだ
ということを忘れちゃいけないと思います。

投稿者 松尾 順 : 09:27 | コメント (0) | トラックバック

受付嬢の復活

会社の受付に呼び出し用の内線電話だけが
ポツンと置いてあるのって、なんだかちょっとわびしいですよね。

来訪者がそれほど多くない企業の場合には、
このような対応もやむをえないことでしょう。


ただ最近、来訪者の多い企業では、
無人だった受付に、再び受付職の人を置くオフィスが
増加しているようです。

近年は、性差別的に受け取られる可能性があるのであまり
おおっぴらに書きにくいのですが・・・とあらかじめ予防線を
張りつつ端的に言うと、

「受付嬢の復活」

が見られるということです。(^-^)


これは、コスト削減のため受付職を廃止、効率化を図るよりも、
「会社の顔」として果たす役割、つまり
「企業ブランド」を強化する役割としての受付職を
重視する企業が出てきたことを物語っています。

受付嬢を復活させた企業としては、「効率」よりも、
企業ブランド強化という「効果」を優先した結果でしょう。


企業ブランドにおいて最も大事なことは、

「企業に対する(理屈抜きの)好感、愛着」

をどれだけ消費者が持ってくれているかだと思うんですが、
好感や愛着は、「モノ」よりも「生身の人間」に対しての方が
持ちやすいですよね。

受付職は、その意味で企業ブランド形成に大きな貢献を
してくれるというわけです。
(オフィスに足を運んでくれた方のみに限定される効果
 ですから、地道なブランディング活動ですけど)


いやあ、それにしても

「受付職を置く人件費はかなりの金額になるよねぇ・・・」

と思われる方もいらっしゃるでしょう。

でも、これからは、「人型ロボット受付」の採用も選択肢に入って
きますよ。研究によると、人型ロボットに対して人は十分に
好感や愛着を持つことがわかってますから。

ただし、映画にでてくるような人間そっくりのアンドロイドじゃ
駄目みたいです。

あまりに人間らしすぎるロボットに対しては、
好感を持たれるどころか、逆に「不気味に思わる」
「気持ち悪がられる」ことも判明してます。

このことは、なんとなく理解できますよね。

命を持たないのに、まるで本物のそっくりの外観と振る舞う
ロボットは、人間だけじゃなく、ペットであってもやっぱり
なぜだか気持ち悪い。

高度なCGを活用した最近のテレビゲームには、
多様なヒーロー、ヒロイン、悪者たちが登場しますが、
彼らを見て正直ちょっと不気味に感じてるのは、
あまりにリアルすぎるためでしょうね。


ちなみに、横軸に「ロボットと人間との類似度」、
縦軸に「そのロボットに対する親近感」を取ったグラフをかくと、
類似度が高まったある地点でストンと親近感が下がるそうです。

突然「親近感」が「不気味さ」に入れわるポイントがある
んですね。これを「不気味の谷」と呼ぶそうです。

さて、話が脱線しましたが、

デパートでは、

「エレベータガール復活」

の兆しもあるようです!

投稿者 松尾 順 : 14:03 | コメント (0) | トラックバック

ローボールに気をつけろ!

ちょっと前の日経新聞に掲載されていた
マンション販売についての実例です。

高野道代さん(65歳)は、チラシに「デザイナーズマンション」
と謳われていた東京練馬区のワンルームマンション(中古物件)
を約500万円で購入しました。

築年数は20年を超えていたけれど、床や壁は大理石風の造り、
自宅から100メートルと近いことも気に入ったのです。

建物の壁にはヒビが入り、屋上に上がるハシゴなど至る所に
サビを見つけたけれど、仲介業者に聞くと、

「修繕積立金は、すでに1000万円あります」

という返事。

そこで、高野さんがほぼ購入を決めかけたところで、
業者は、「修繕積立金の額は、実は100万円台です」
と訂正してきました。

でも、高野さんは「なんとかなるだろう」と
購入に踏み切ったのが「後の祭り」でした。


実際、当マンションのオーナーになってみると、
あまりにもひどい実態に直面します。

清掃ひとつとっても手抜きされますし、
マンション組合の総会も18年間にわたって一度も開催されて
いなかったのでした。管理費の使途も不明。

要するに、所有者の無関心を逆手にとった

「管理会社にいいようにされた物件」

だったということです。


さて、最初に「修繕積立金は1000万円」と応えた仲介業者
ですが、意図的に嘘をついたことがおわかりでしょうか。

これは、販売テクニックとしては常套手段のひとつ、

「ローボールテクニック」

です。

最初に相手がとりやすい低い球(有利な条件)を投げておいて、
その気にさせた後で、その有利な条件を不利なものに変更する。
まあ、文書に残してあれば詐欺罪成立しちゃいます。

しかし、人間心理とは不思議なもので、
いったん決断してしまうと、その取引を打ち切ることよりも、
物事を都合よく解釈して自分を納得させてしまいがち。

高野さんのように、

「なんとかなるだろう」

と思っちゃうわけです。


販売の現場では、
こうした顧客心理のモロさを突いた様々なテクニックが
日々実践されていることがわかりますよね。

他にもいろんな販売テクニックがありまして、
知っておくと騙されずにすむんですけれど、

まずは

ローボールに気をつけろ!

投稿者 松尾 順 : 10:45 | コメント (3) | トラックバック

メタファーのチカラ

今まで自分が理解していなかったこと、知らなかったことを

「なるほどね」

「そういうことか」

と‘わかる’ために役立つのが、

「メタファー」、つまり「比喩(たとえ)」です。


なぜなら、人は、知らないことを理解しようとするために、
すでに知っている知識やイメージを用いて、置き換えたり、
近似するものだからです。

例えば、「なまこ」を見たことのない人に、

「棘皮動物ナマコ網に属する海の生物で、
 体長20-30cm位の大きさ・・・」

といった説明は正確かも知れませんが、
実際のところ、わかった気しませんよね。

「え、なまこ?ゾウリみたいな形の変な生き物だよ」

と言い切ってくれた方が、生物学的には不正確でも、
なんとなくわかった気になるし、好奇心が刺激されて、
さらに調べてみようという気持ちにもなります。


ですから、説明がわかりやすい、あるいは説得力が
ある話ができる人は、ほぼ例外なく、
「メタファーのチカラ」をうまく活用できている人です。

最近、このメタファー使いの名手として注目しているのが、
これまでもご紹介したことのある、
ジャストレードの須子はるかさん。


今週3月13日にリリースされたばかりの新サービスにも
メタファーのチカラが存分に注入されています。

名づけて、

「理想の自分誕生クリニック」


ネーミングのキャッチーさもさることながら、
全7回のコースを文字通り、受精から出産までの
「妊娠プロセス」に喩えています。

各コースのキーワードになっているメタファーを並べて
みましょう。

・第1回・・・受精
・第2回・・・妊娠発覚
・第3回・・・超音波検査
・第5回・・・つわり
・第6回・・・胎教
・第7回・・・立会い出産

ここまでやるんだ、まったくもう、さすがですよね。(^-^)


ただ、内容は「コーチング理論」などをベースとした
まじめでしっかりしたものです。

それだけに、型どおりの説明では理解が難しい、
魅力が伝わりにくい無形のセミナーを「妊娠プロセス」に
喩えて説明することで、実にわかりやすい、
腑に落ちるコピーになっているわけです。

このメタファー使いのうまさは、本にもなった

「コミュニケーション集中治療室」

でもおおいに発揮されたところでした。

コミュニケーションの問題を「病気」(コミュニケーション疾患)
と呼び、それを美人女医(須子さん)と美人看護師(松村さん)
の2人が治療に当たるいうメタファーはセンセーショナルでした。

特にコスプレが最高でしたね。(^-^)


セミナー好きの私ですから、「理想の自分誕生クリニック」も
受講してみようかなあと考えてます。

投稿者 松尾 順 : 10:56 | コメント (0) | トラックバック

団塊の性感帯

団塊の世代はここまで死ぬほど頑張ってきた人たち。

ところが、年金をもらっておいしい思いをしているのは前の世代。

団塊の世代は、我々も

「頑張れば先輩たちのようになれる」

と思ってたら、

世間が「ルールが変わった」「実力主義」だと言い始めて、
やや理不尽な思いがある。


そこで、

「頑張りましたよね、先輩!」

とくすぐってやれば、

「そやろ?」

と返してきます、間違いなく。(笑)

「団塊」の“性感帯”はそこじゃないですか。


と言うのは、元吉本興業常務の木村政雄氏です。
(プレジデント、2006/0403)

さすが、元やすきよのマネージャーだけあって、
絶妙な言葉を使ってきますね。


人は誰でも、「認められたい」という承認欲求があるものですが、
団塊の世代は、日本経済の高度成長に貢献したのが我々だという
自負があるだけに、人一倍「認められたい」という欲求が強い。


ですから、その思いをうまく「攻める」のが、
団塊の世代を「イかせる」コツというわけです。


また、木村さんは、団塊の世代の特徴として、
社会との関わりがものすごく強かったので、

「社会の役に立ちたい」

という思いが非常に強いそうです。


このため、退職、引退によって社会との関わりが断ち切られるのが
つらい。そして、木村さんの言う「賞味期限切れの自分」を
認めたくはない。

だから、彼らの「賞味期限」を伸ばしてあげることが
求められているのです。

これは、言い換えると自分の「存在意義」の再生でしょう。


というわけで、木村さんが考えているビジネスアイディアは、

・定年後、行く場所と名刺を失って困っている人たちを対象

・いい場所にビルを借りて「○○株式会社」を立ち上げ、
 フロアをブースで仕切る

・そこでは、仕事をしても、新聞を読んでいても良い

・名刺の肩書きは、「顧問」だとお情けみたいだから、
 功成り名を遂げた感のある「相談役」

・月会費は5万円程度

といったもの。

これで、同窓会でも、ご近所でも「面目」が立ちますよ、
ということだそうです。


このアイディア、いわゆるレンタルオフィスの延長で
すぐにでもできそうですね。

傍目から見ると、形式を整えてあげるだけのサービスに
しか過ぎず、ちょっと空しさが漂ってきますけど。


でも、「面目を立てる」ことはまさに体面的、
つまり表面的な問題ですから、団塊の世代の方々の
存在意義を再生させるベストソリューションかも知れません。

投稿者 松尾 順 : 12:36 | コメント (0) | トラックバック

攻めから待ちへ

自動車販売というと、ディーラーの営業マンが足を棒にして
一軒一軒家庭を訪問して歩くイメージが強いですよね。


ところが、日本自動車販売協会連合会(自販連)がまとめた
「国内自動車販売の現状と課題」によると、
顧客が来店して車を購入した比率(店頭販売比率)が、
2004年度では全体の48.5%を占めています。
(日経産業新聞、2006/03/13)

2000年度は同38.1%でしたので、4年間で10%のアップ。


いまや、顧客の2人に1人は、
「お店」で車を買うようになったというわけです。


最近は、家族みんな働きに出ているため、
日中訪問しても不在の家が多くなってますし、
マンションなんかだと、
エントランスがロックされていて個別訪問ができない。

しかも、物騒な世の中、エタイの知れない訪問営業は
ますます嫌がられる存在になってます。

当然ながら、訪問販売の効率は大幅に低下してます。


一方で、消費者の方は、
ネットを活用して事前にじっくり検索、情報収集。

値引き後の実勢販売価格も知った上で、
購入したい車種をあらかた絞り込んでしまいます。

そして、最後の判断材料として
実車をこの目で見て、試乗するために来店します。

この新しい消費行動プロセスには、残念ながら
従来型の車の営業マンの出番はないですよね。


国内の自動車販売会社は、自動車メーカーとの資本関係は
ほとんどなく(一部輸入メーカーを除く)、
それぞれが独立した別企業なんですが、
この顧客の消費行動プロセスの変化をしっかり捉えて、
売り方を

「攻め(プッシュ)」から「待ち(プル)」

へとうまく転換できるかどうかが、
ますます生き残りの鍵になってきたようです。


そういえば、私の友人が以前、某大手国内ディーラーの
営業マンになりましたが、販売台数に応じて上乗せされる
インセンティブ手当てはあまり魅力的なものではありませんでした。

思わず、

「この程度のインセンティブで、よく売る気になるね」(^-^)

と言ったほどです。

実際、毎月の販売目標台数を決めさせられ、
アメよりはムチで売らされていたようですが・・・


しかし、自動車業界に限らず、
いまだに根性だけのプッシュセールスに頼る業界って
多いですよね。

投稿者 松尾 順 : 14:17 | コメント (0) | トラックバック

立体キャラ

マーケティングの出発点は、まず企業や商品・サービスの
名前を浸透させることですよね。

つまり、

「認知率を高める」

ことなのは、このメルマガ(ブログ)の読者の方には
改めて言うまでもない点だと思います。


ただ、認知率を高めるといっても、それは
とりあえず1回知らせればOKというものではなくて、
顧客の脳に深く刻み込まれ、最優先で思い出してくれる状態を
目指すべきでしょう。

すなわち、お客様の「覚えめでたい存在」になりたいわけです。
これこそ、「ブランド構築」に成功したと言える状態なんですが。


では、「覚えめでたい存在」になるためにどうしたら
いいんでしょうか?

小難しいブランド構築の考え方はいろいろありますが、
基本的な視点として覚えておいてもらいたいのは、

「キャラを立たせる」

ということです。


“なるほど、それは当然だね!”と思いかもしれませんが、
キャラを立たせるためには、ただ

「目立てばいい」

というものではありません。

キャラを‘立たせる’わけですから、文字通り
平面的で薄っぺらい伝え方だとバタンと倒れてしまう。

ですから、キャラに‘ふくらみ’を持たせ座りをよくし、
倒れないようにする必要があります。


このために考慮すべき第一のポイントは五感に訴えること。

企業や商品・サービスの名称について、
視覚、聴覚、嗅覚、味覚、肌感覚(嗅覚)のそれぞれの感覚
をできるだけ活用して様々な連想が立ち上がるようにすること。


もう一つのポイントは、企業や商品・サービスに関わるイメージを
深く、多様なものにすること。

できれば、オキシモロン的な矛盾したイメージを
同時に持たせることです。

キャラの立っている人の特徴を思い浮かべてもらうとわかりますが、

「明るさと暗さ」

あるいは

「厳しさと優しさ」

「生真面目さと破天荒さ」

など、時と場所、状況によって相反するような
多様な個性を見せる人は、人間性の深さを感じさせるため
大いに魅力を感じるものなのです。


人でも企業、商品・サービスでもなんでも、

「立体キャラ」

を目指しましょう!

投稿者 松尾 順 : 05:27 | コメント (0) | トラックバック

できるだけリアルな「顧客の仮面」をかぶる方法

「お客様のために」

じゃだめだ、

「お客様の立場で」

考えろ!


と言うのは、確かIYグループ会長の鈴木敏文氏でしたね。


確かに

「お客様のために」

というのは、一見正しい考え方のようですが、
現実には、サービス提供者側の一人よがりに終わることが
多いかもしれません。

お客としては、

「そんな無意味なサービスより安くしろ」

と言いたくなる過剰サービスなどがそうでしょう。
嫌われるだけの結果に終わる押し売りコールもそうですね。


でも、「お客様の立場」になるというのはまこと難しい。

自分が何か買う段になる時には、ごく自然に「お客様」になれるのに、
いったん企業側担当者の立場に身を置くと、
とたんに顧客心理がわからなくなるのは不思議ですよね。


そんなあなたにお勧めしたいのが「ペルソナ法」です。

「ペルソナ法」では、まず、

自社の商品・サービスを使ってくれそうな、あるいは
使って欲しい「典型的な顧客像」をできるだけ具体的に想定します。

つまり、その顧客の名前(海田山男とか)、性別、年齢はもちろん、
職業、住居、年収、家族構成、趣味、レジャー、スポーツ、
ファッション、購読雑誌、結婚観などなど。


あくまでバーチャルな存在ではあるのですが、
あたかも実在の人物であるかのように
できるだけ詳しく書き出します。

そして、この「海田山男さん」は、自社の商品・サービス
に対してどんなことを言いそうか、どんな使い方をしそうか、
考えてみます。


通常、ターゲットの設定は、「20-30代の男性」といった
粗い決め方で走ってしまうことが多いですよね。
でも、こんな粗いターゲット設定だから、
なかなか顧客の立場に立てない。

「ペルソナ法」のアプローチだと、
詳細なプロフィールを設定する段階で、いわば自分が、
「顧客の仮面」をかぶったように感じるところがポイントです。
(ペルソナとは元々「仮面」という意味があります)

本当の意味で、顧客の立場に自分を置いて考えることが
できるわけです。


このペルソナ法、まだあまり知られた手法ではありませんが、
大手企業ではかなり採用されつつあります。

最近だと、日本IBMさんのホームページ作成ソフト
「ホームページビルダー」の最新バージョンの開発に当たって、

“実際には存在しない仮想ユーザー『ペルソナ』を5人ほど
設定し、その人たちが使いやすい設計とは何かを徹底して
考えた”(山崎和彦氏、ユーザーエクスペリエンスデザイン
センター マネジャー)

そうです。


できるだけリアルに「顧客の仮面」をかぶる方法、
それが「ペルソナ法」です。

投稿者 松尾 順 : 00:26 | コメント (3) | トラックバック

お客様アンケート・勝手突っ込み

昨日、仕事の帰りに久しぶりに「大戸屋」に入りました。

半年振りくらいでしょうか。普段の行動範囲内にお店がないので
なかなか行く機会がありません。


「大戸屋」は、女性に人気の定食屋さんですが、
やはりいろんな点でバランスが取れてますよね。

清潔な店内、一品一品にこだわったメニュー、
悪くない接客サービス、手頃な価格。

いつ行っても、満足度は十分高い。
高級店じゃないですから、そんなに高い期待値は持ってません。
むしろ、フツーよりちょっとだけ上ぐらいが客としても気楽です。


さて、今回、テーブルの前に「お客様アンケート」が
あるのを発見しました。

「おっ、これはメルマガ(ブログ)のネタになるかもしれん!」

動物的な勘が働いて早速チェックしてみると、
案の定問題だらけのアンケートでした。


とうわけで、勝手に突っ込み入れさせてもらいます。(笑)

一番問題な「第2問」だけ取り上げます。

------------------------------------------------------

2.大戸屋へのご利用頻度
〔どれか一つの□の中に○を記入してください〕

□1:はじめて □2:月1-2回 □3:週2-3回

------------------------------------------------------


はて、半年に1回位の私の場合、どこに○をつけたらいいのか?

週5‐6日来てるような「超ヘビーユーザー」も、
○をつける場所を迷いますよね。


要するに、この選択肢だと、
利用頻度のあらゆるケースを網羅していないわけです。

回答する方としては、該当する選択肢がなければ
無回答のままにしておく人もいるでしょう。

また、このアンケートは、回答者の中から抽選で食事券が
当たることになってます。

「不完全な回答だと食事券がもらえないかも・・・」
というわけで、適当に○をつける人の方も多いでしょうね。


ですから、このアンケートは、
顧客の声を拾ったはいいけれど、信頼性の低い、
使えないデータばかりが集まっている可能性が高いわけです。

おそらく、外部のプロの力を借りずに社内で作成された
アンケートでしょう。それならそれでいいんですが、
ササッと作っていきなり店舗に配布したようです。


なぜ、「プリテスト」をやらなかったんでしょうね。
必ずしもお金はかけなくていいんですよ。

隣に座ってる同僚とか、自分の家族数人に、

「悪いけど、このアンケート案、回答してみてくれない?
 でさ、回答しにくいところとかあったら教えてね」

と頼むだけでOKなのに・・・。


さてさて、このアンケートデータ、
実際どの程度活用されているか、大戸屋さんに
聞いてみたいものですね。

投稿者 松尾 順 : 11:47 | コメント (0) | トラックバック

オキシモロンが好き!

「オキシモロン」って、やらしい性フェロモンとかじゃないです。
でも、私はとても好きなんです。

オキシモロンは、日本語では「撞着(どうちゃく)話法」と
訳されます。「矛盾語法」と呼ばれることもあります。

文字通り、矛盾した言葉を組み合わせた表現のことです。
ぱっと見た瞬間、「ありえねー」と感じるわけのわからない表現。

例えば、

「巨大な小エビ」

「冷たい太陽」

「凶暴な優等生」

「エッジの効いたなまこ」

など・・・

オキシモロンは、小説や映画のタイトル、広告表現などで
様々な形で使用されていますが、読み手を「ハッ」とさせ、
あるいは「ニヤリ」とさせ、興味を喚起する効果がありますね。


また、オキシモロンは、新たな発想、商品開発の原点と
なりうるテクニックでもあるんですよ。

なぜなら、新たな発想は、基本的に異質な(=矛盾した)情報の
組み合わせから生まれるわけですから。


パーミションマーケティングのセス・ゴーディンの最新刊、

‘マーケティングは「嘘」を語れ!’
(セス・ゴーディン著、沢崎冬日訳、ダイヤモンド社)


の中でも、「撞着話法」について触れられています。


“撞着話法が最も大きな効果を発揮するのは、これによって、
矛盾する二つの概念双方を実際に「求めて」いる、
少数ではあるが今まで相手にされていなかったグループに
働きかけることが可能になる場合である”

そして、具体例として挙げるのは、

急成長している客船ビジネス「アドベンチャークルーズ」
スターバックスの「カフェイン抜き豆乳ラテ」

です。

「アドベンチャークルーズ」は、冒険と快適さという相反する
欲求を同時に充足させる新市場を、また、
「カフェイン抜き豆乳ラテ」は、
健康を志向しつつコーヒーを楽しみたいという市場を発見した
わけです。

また、日本で最も成功したオキシモロン発想は、

「コクとキレ」

のアサヒスーパードライでしょう。

これは言い換えると、新たな「市場ポジショニング」ですね。


ちなみに、私が師範代を務めている編集学校では、
発想法の稽古(練習)としてこのオキシモロンが採用されてます。

実際、自分でオキシモロンを作ってみてください。
なかなか楽しいですよ。


ソクラテスの名言、

「無知の知」

もオキシモロンです。

投稿者 松尾 順 : 11:14 | コメント (3) | トラックバック

人を和ませる天才に満ちた国

最近、日本人のモノの見方・考え方や行動、その背景にある
風土、文化、伝統のすばらしさを讃える人が目立ちます。

マインドリーディングでも何度か触れましたが、例えば、
「国家の品格」を書いたお茶の水女子大教授、藤原正彦氏や、
元財務官で現慶応大学教授、榊原英資氏などです。


さて、もう一人、強力な日本人礼賛論を展開するのは、
ハリウッドで映画プロデューサーとして活躍してきた
マックス桐島氏。

マックス氏は、高校生時代に日本を離れ、
以降30数年を米国で暮らしてきた方です。


彼は日経アソシエ最新号(2006.03.21)で次のように
語っています。(一部抜粋、編集)

“外国人観光客が絶賛するのは、六本木や新宿界隈の
ナイトライフではない。実は、空港やホテルのロビーを
一心不乱に清掃する中年の清掃作業員、交番で丁寧に
道案内する巡査、デパートやレストランで小まめに
接客する店員らの「最善の心で接する」姿勢なのだ”

“初めてのレストランに足を踏み入れること自体が
ギャンブルであるアメリカと違い、
駅前の食堂でも丁寧な味わいが楽しめる日本は、
まさに人を和ませる天才に満ちた国。”

“日本の魅力、そして日本人の魅力とは、もてなし、
親切、思いやりという行動を通じて「和」を極め、
周囲に心の安らぎを提供できること。
そして、相手の心情を考慮した和みの空間を
自然に演出できるところにある気がする”


米国のことは表も裏も知り尽くし、日本を客観的に
眺めることのできるマック氏は、ずばり、
日本人の強みを再認識させてくれていますよね。


ただ、こうした日本の魅力が、
近年、徐々に失われてきていることは否めません。

その最大の原因は、短期的業績と効率化を重視する
「グローバルスタンダード」というルールに
日本人が合わせようとしてきたから。


「グローバルスタンダード」は、
要するに米国型ルールであり、そのルールに
従うということは米国の土俵で勝負すること。
そこで勝つのはなかなかに難しい。

ただ、今のグローバルスタンダードが
生み出す世界は決して理想的なものではありません。
人間性があまりにも欠けている。

おそらく、今後、新たなグローバルスタンダードが
求められるようになってきます。

ですから、私たちは日本人としての誇りを持ち、
マックス桐島氏が指摘する私たちの魅力、強みが
発揮できるルールを生み出し、それを世界に浸透させる
という方向に発想転換すべきじゃないでしょうか。


ちょっと演説調になっちゃいましたが・・・、
国であれ、民族であれ、会社であれ、個人であれ、
「自分たちらしさ」は大切にすべきだし、
簡単に捨ててはいけないものなのです。

投稿者 松尾 順 : 16:17 | コメント (0) | トラックバック

キャリアの羅針盤

週末は気分転換のため(⌒o⌒;、
マインドリーディングのテーマをちょっと脱線することにしたんですが、
今週末はキャリアアドバイザーの立場から書いたものを掲載します。
知恵市場に投稿したものです)

自分のこれからのキャリア形成を設計する場合、

・キャリアのゴール(目標)の設定
・キャリアのゴール到達のための「実行計画」作成

の2つを行うことが定番ですね。

確かに、

「どこに行きたいのか」

そして

「どうやってそこに行くのか」

が明確になっていないと、
日々の行動に落とし込むことができません。


ただ、注意しなければいけないのは、
実際、キャリアのゴール目指して行動開始したはいいが、
物事は、なかなか「実行計画」通りには進まないという点です。

「実行計画」は、キャリアのゴール(目標)までの道順を示した、
いわば「地図」(ロードマップ)ですが、本物の地図とは違って、
道順自体がぐにゃぐにゃと動いています。

突然道が切れたり、大きな障害物で塞がれてしまったり、
逆に予想もしないところに新たな道が現れ、
どちらに進めばいいのかわからなくなるといったことが
しょっちゅう起こります。

つまり、「実行計画」は、一度立てればOKというものではなく、
かなり頻繁に見直す必要があるのです。

ところが、頻繁に見直していると、自分が目指すべき方向は
こちらでいいのだろうか、といった迷いが出てくることがあります。

これは、要するに方向感覚を失った状態です。

こんな時、持っておくべきものはなんでしょうか?

そうです、「羅針盤」、つまりコンパス(方位磁石)ですね。

キャリアデザインを行う際には、キャリアのゴール、実行計画と
併せて「キャリアの羅針盤」を持っておくことがいいんです。

キャリアの羅針盤とは、端的に言えば、人生やキャリアに対する
基本的な考え方や価値観と言えます。

「自分は人生やキャリアの中で、どんなことを大切にしたいのか、
 優先したいのか」

という答えが「キャリアの羅針盤」です。

キャリアの羅針盤は、生き方の大きな方向性を示してくれます。
したがって、キャリアの実行計画、すなわち地図(ロードマップ)を
頻繁に書き換えたとしても、日々の細かい道順は教えてくれない
ものの、進むべき方角を間違うことはありません。

さて、「キャリアの羅針盤」ですが、
社会人の人生やキャリアに対する考え方、価値観を調べた研究によれば、
大きく次の5つの方角(キーワードで表されています)が
あるとされています。

1 上昇
2 安全
3 自由
4 バランス
5 成長

それぞれの方角を持つ人は、おおよそどんな考えや価値観を持ち、どんな
行動を取る傾向があるのかを次に説明します。

上昇:昇進を望む、権限・責任を受け入れる、挑戦を好む、成果を重視

安全:成果を仲間と分かち合う、「会社のため」の発想強い、雇用安定性を重視

自由:自由を求める、規律を好まない、孤高を保ち、自分らしさを追求

バランス:私生活を大切にする(ただし、非常事態にはハードワークをいとわない)、
      余裕のある生き方を重視

成長:自分の能力が発揮できる場を求める、飽きっぽく、報酬よりも、 
    わくわくできる仕事を優先。アイディア志向


あなたの羅針盤はどれでしょうか?
あなたの羅針盤が明確であれば、日々の行動に迷いがあまり出ません。

キャリアの地図(実行計画)があまりあてにならず、
右往左往する毎日であっても、進むべき方角がはっきりわかっているからです。

なお、上記に示した羅針盤の5つの方角は、あくまで研究から導かれた
ひとつの分け方であり、自分の羅針盤が必ずどれかに該当しなければ
ならないと思い込まないでください。実際には、いくつかの方角の組み合わせ
であっても、またこれ以外の方角であってもいいのです。

大切なのは、自分が納得できる、自分なりの「キャリアの羅針盤」を持っていることです。

ちなみに、私のキャリアの羅針盤の方角は、若い頃は「成長」と「自由」の中間
くらいでした。最近は「バランス」も重要になってきています。

投稿者 松尾 順 : 15:52 | コメント (0) | トラックバック

「甘えてくださいね!」


最近人気の癒し系サービス、例えば、
マッサージ、リフレクソロジー、アロマセラピーやメイドカフェ!
などの魅力は、ある意味、

「相手に身を委ねることにある」

と思いませんか。

体も心も無防備にして、「おまかせするわ!お願い」
ということです。


そう考えると、癒し系サービスは、要するに

「堂々と甘えられる」

というベネフィットを提供しているわけです。

世の中の変化があまりに早くて、毎日追い立てられるようだし、
人との関わりもずいぶん希薄になってきてる昨今、
「心の平安」を少しでも取り戻すために、

「気を許して甘えられる」相手と時間を持ちたい

というのは当然のことでしょう。


ただ、この「甘えられる」というキーワードは、
癒し系サービスに限定して考えるのではなく、
商品・サービス全般に拡張してもいいんじゃないでしょうか。


具体的には、これからは、

「消費者ニーズ」

ではなくて、

「消費者甘え」

と呼ぶようにしましょう!(⌒o⌒;

すると、ずいぶん新商品・サービスのアイディアが
ずいぶん柔軟に出やすくなるようにと思います。

「消費者ニーズ」というのは、どうも固い表現だし、
わかりにくい。思考が広がらないです。


でも、

“「消費者甘え」を満たしてあげる商品・サービスって
 なんだろうね?”

というテーマのブレストなら、
なんだか楽しそうじゃないですか?


「甘えたい」という言葉の裏にある真の欲求は、
「気持ちよくさせて」「楽させて」ということです。

欠乏の充足という側面の強い「消費者ニーズ」は、
高い生活水準を達成した日本ではそうそうありませんよね。

でも、常に「快」「楽」を追求したいのがヒト。
その欲求に限度はありません。

ありがたいことに、精神科医の和田秀樹さんが
おっしゃってますが、相手の心情に配慮する日本人は、
相手の甘えを満たしてあげることが得意です。


消費者(顧客)に対して、もっと

「甘えてくださいね!」

と言える商品やサービスのネタはいくらでもあります。

ただ、社会・企業倫理や地球環境への配慮は
忘れずにお願いしますね。

投稿者 松尾 順 : 11:46 | コメント (2) | トラックバック

卵と油抜きのマヨネーズ

マヨネーズは何で出来てるかご存知ですよね。
学校の家庭科の時間に確か習ったかな・・・

メインの材料は、卵(卵黄)とサラダ油です。


でも、卵と油を使わないマヨネーズがあったらどうします?
というか、信じられますか?

正確に言うと「マヨネーズ風」ですが、
先月発売された、

「リケン ノンオイル(マヨネーズタイプ)」

は、卵も油も使っていないので、
脂質、コレステロールがゼロの画期的なマヨネーズタイプ
調味料。カロリーは通常のマヨネーズの八分の一です。

この商品、最初は「油抜きのマヨネーズ」を作ろうとしていて、
いっそのこと「卵」も抜いてしまえということで
出来た商品だそうです。

この商品、病気などの理由でマヨネーズを食べられなかった人、
またダイエット中の方などに歓迎されそうですね。


しかし、最近こうした「もどき商品」が、
ますます増えているんじゃないでしょうか。

第三のビール(ビール風アルコール飲料)も考えたらそうです。
原材料が、「エンドウ豆」とか「大豆」ですから。

また、私も好きでよく行く低価格ステーキ屋「ペッパーランチ」
のステーキは一枚もののじゃなくて、何枚かの肉を圧着させた
成型肉です。同店では、「やわらか加工」と称しています。
(ちょっと誤魔化してますね・・・)


それから、ずいぶん前からありますが、
喫茶店などでコーヒーと一緒に出される「ポーションミルク」は
植物油脂が主原料です。
いわゆる本物のミルク(牛乳)はほとんど入ってません。


カラダの中に入る食物のことですから、
食品メーカーとしては、原材料や製法には
十分な注意を払っているはず。(とある程度は信じたい・・・)

ただ、同時に使われることの多い「食品添加物」については
結構大丈夫かなと心配になりますよね。

食品業界の内部事情を赤裸々にしたこんな本も出版されてますし。

・食品の裏側-みんな大好きな食品添加物(安部司著、東洋経済新報社)


「もどき商品」を十把一絡げに非難するつもりはありませんが、
メーカーさんには十分な情報公開をお願いしたいところです。


今の消費者が持ってる情報・知識量と口コミネットワーク力には
もはや勝てません。

公明正大、包み隠さずぜんぶ公開してしまうという覚悟で
お願いします。

投稿者 松尾 順 : 13:05 | コメント (0) | トラックバック

観察調査の最前線

20代前半、私はフィールド(現場)調査員として、
関東エリアの小売店を毎日ぐるぐる回っていました。

ダイエー、西友などのGMS、マルエツなどの生鮮スーパーや
コンビニ、ドラッグストア、化粧品店、タバコ屋、酒屋などを
訪問し、店頭を歩き倉庫にもぐりこみ、仕入れ伝票をチェック
して、日用品・雑貨、食料品、飲料、タバコなどの販売数を
調査してくるのです。


業種・業態の違いによる店舗レイアウトの違いや、
商品構成の違い、様々な店頭プロモーションの変化が面白く、
毎日楽しかったものです。


ただ、調査員としてもの足りなかったのは、
どの商品がどのくらい売れているかという「結果データ」は
集めていたのですが、
なぜその商品が売れているかという「理由データ」を
集めていなかったことです。

しばらくして、チラシに商品が掲載されていたかどうか、
また、店頭で「特売」(特別の陳列スペースを設置するなど)
されていたかどうか、といった情報を追加収集するように
なりましたが、それだけでは「理由データ」としては
十分ではありません。

店舗内での消費者の購買行動を把握できればよかったのですが、
そこまではやれなかったんですよね。


さて、この店舗内での消費行動を調べる方法としては、
主に「観察調査」が採用されます。

数年前にベストセラーになった

「なぜこの店で買ってしまうのか ショッピングの科学」

の著者、パコ・アンダーヒルさんの会社は、
調査員が買い物客の後ろをこっそり尾行したり、
ビデオで撮影して消費者の店舗での行動を記録・分析する
「観察調査」を専門としています。

確か日本でも、同社のノウハウを導入した調査会社が
あったと思います。ただ、年に数回程度やるならまだしも、
継続的にやるには、結構な費用がかかるでしょう。


しかし、ICタグの活用によって、観察調査の一部を
自動で代替できる時代がやってきました。

ICタグは、電子チップを組み込んだ小さな荷札です。

これを商品ひとつひとつに貼り付けておき、ICタグが
発する信号を受信できるアンテナを店頭に設置します。

こうすれば、商品を前にした消費者の行動が把握できる
ようになります。


日経ビジネス2006年2月27日号では、
ICタグ活用の観察調査について、

レコード販売大手の「新星堂」と、
ウォルト・ディズニーのDVD販売部門、
「ブエナビスタホームエンタテイメント」、
コンサルティング大手の「アクセンチュア」

の3社による実験結果が公表されています。

・実験店舗:新星堂赤羽ヨーカドー店。
・実験期間:2005年9月~2006年3月。
・対象商品:ディズニーの旧作DVD。

商品につけられたICタグの動きを棚のアンテナが
捉え、商品が手に取られた回数や時間が分かる仕組みです。


昨年12月までの3ヶ月のデータの分析結果によると、
次のようなことがわかっています。

(1)手に取られやすいのは全6段の棚の上の方から4段目
(2)陳列を頻繁に変更したほうが手に取られる回数が増加
(3)平均7.9回、手に取られれば商品は売れる
(4)複数のタイトルを手に取る客が商品を買う確率は
   1タイトルしか触らない客の1.9倍

ただ、手に取られる回数と売れる回数は必ずしも比例せず、
あまり手に取られなくても売れる商品、逆に手に取られても
あまり売れない商品があるといったこともわかってきました。

この観察調査手法は、店舗のレイアウト、品揃え、商品配置
などに加えて、消費者の興味関心度合いを実際の行動から
推測できるので、「なぜ買うのか・買わないのか」という
理由データとして高い価値がありそうです。


ICタグの単価がまだまだ高いこと、また
商品に貼り付ける手間があるため、
この仕組みの実用化はまだ先になりそうです。

しかし、なんといっても情報収集が自動化できますし、
データも正確、継続的に調査可能ですので、
今後、普及しそうな有望な調査方法ですね。

投稿者 松尾 順 : 13:52 | コメント (0) | トラックバック