子供に対する、親の無条件の愛
「ザ・ウインザーホテル洞爺」をご存知でしょうか。
洞爺湖を見下ろす北海道のリゾートホテルです。
千歳空港から電車で70分、さらに駅から車で20分。
交通不便な立地ではあるものの、バブル時代に665億円を投じて
建設された一流の豪華施設と雄大な自然環境が魅力です。
ウインザーホテルの前身は、「ホテルエイペックス洞爺」。
92年に、一口3千万円の会員制のリゾートホテルとして
開業しました。しかし、バブル崩壊ため会員が集まりません。
あわてて一般客にも開放し、料金の引き下げを図ったものの、
96年には客室稼働率が22%まで低下していました。
そこで、当時、長崎ハウステンボスのホテル立ち上げを
成功させた伝説のホテルマン、窪山哲雄氏が同ホテルの
運営を引き受けることにしたのです。97年のことでした。
ところが、ホテル名をウインザーホテルに変更し、窪山氏が
さあこれからだと思った矢先の同年11月、実質的な同ホテルの
オーナーだった拓殖銀行が破綻しました。
その結果、ウインザーホテルは閉鎖を余儀なくされました。
苦渋の閉鎖後、窪山氏は、同ホテルの再生のために駆けずり回り、
2002年6月、ようやく営業再開(グランドオープン)を果たします。
その頃、グランドオープン直前に窪山氏が書いた本があります。
「プロジェクトホテル」(小学館)という題名です。
さらに、グランドーオープン1年後の2003年7月には、
「サービス哲学」(オーエス出版)を上梓されています。
当時、私はこの2冊の本を読み、窪山氏のホテルマンとしての
熱い思いと、確固たるサービス哲学に深い感銘を受けました。
窪山氏は、社会におけるサービスの真髄を
「子供に対する、親の無条件の愛」
だと考えています。
すなわち、「サービス」とは母性なのです。
ほぼすべてにおいてお客さまを受け入れ、恥をかかせず、
ノーと言わない姿勢。
これが、窪山氏の考える、サービス業のあるべき姿です。
私たち素人はこんな考えを聞くと、
「すべてを受け入れていたら、客がつけあがらないだろうか」
とか、
「言われたとおりのことをやっていたら赤字になるんじゃないか」
とか思っちゃいませんか。
ところが、実際はそうではないのです。
図に乗ってわがままし放題のお客さんは、ほんの一握りです。
大多数の人は、相手から受けた愛に対して、私も相応の愛を
お返ししなければと思わずにいられなくなります。
その結果、繰り返し訪れるロイヤル顧客となり、
また友人知人に口コミしまくるようになるのです。
これは、人間が集団生活を営む上で、生得的に備わっている
「互酬性」(受けた借りは返すさずにはいられないということ)
のなせる業でしょう。
実際、サービス業で成功しているところは、まず間違いなく
この「NOと言わない」というサービス哲学を持っています。
たとえば、大阪のリッツカールトン、
そして‘愛と感動のレストラン’青山の「カシータ」です。
リッツカールトンには宿泊したことはありませんが、
カシータのサービスは体験したことがあります。
確かに、ずば抜けた「母性」を感じました。
さて、ウインザーホテルの話題を取り上げたのには
理由があります。
ウインザーホテルは今年、遂に復活したのです。
先日掲載された日経産業新聞の記事によると、
今年、単年度黒字を達成できる見通しになったそうです。
直近の実績を見ると、今年8月の稼働率は89.9%、
ほぼ満室状態ですね。
客室単価43700円、一人当たりの消費額は51000円でした。
親の愛のサービスに対して、宿泊客はたっぷりと「お金」で
借りを返してくれています。(^o^)
私は常日頃思うのですが、サービス業にかかわらず、
すべてのビジネスは、こちらが先にお客さまに「愛」を
注ぐことではないでしょうか?
投稿者 松尾 順 : 2005年11月07日 12:11
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